毒親カウンセリング成功のヒントは【愛着の回復】~毒親ですらなかった

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・大人になっても生きづらい、原因はいろいろと思うが、毒親が原因か?
・毒親から解放され、自分を取り戻すにはどうしたらいいの?
・毒親育ちのアダルトチルドレンの私、回復するのでしょうか

毒親の定義は定まっているわけではありませんが、【子どもをコントロールする親】と考えていいでしょう。しかし自分の親が、その毒親ですらなかったという絶望に気がつく人々がいます。彼らは愛着障害という生き方を背負っています。そうなんです、毒親という言葉の裏側には【愛着の悩み】が根深く隠されているのです。

毒親というと、アダルトチルドレン(AC)という言葉が浮かびます。切っても切れない関係ですね。そのACという人々の集団の一部に、この愛着障害を生きる集団の人々がいます。この記事は、毒親の深層部に横たわっている愛着問題にフォーカスしています。そのとき、あなたは「うちの親は毒親ですらなかった」ことに気がつくでしょう。

この「毒親ですらなかった」という絶望が、希望に変わるときは来ます。この記事では、それをお伝えしています。これから愛着障害からの回復するための3つのヒントを解説します。これらによって「毒親の子ども」というポジションから卒業していけるでしょう。臨床心理士がお伝えするこの知恵は、のべ2万人の悩みを聴くなかで学んだものです。その3つのヒントとは、

  • 愛着の回復
  • 安全感の回復
  • 何重にも守られた関係性―子ども、パートナー、カウンセラー

これらの回復を知る前に、毒親という言葉についての理解を深めましょう。

■毒になる親

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子どもは養育者を求めています

スーザン・フォワードによるこの本は、ACが注目されるきっかけになった記念碑的な本です。彼女自身も毒親に育てられたことがこの本で告白されています。この本をきっかけに、機能不全家族という概念が提出されたことは、大きな功績でもありました。精神科医の斉藤学先生の業績です。

ボウルビィの愛着研究(*1)と、ハーマンの心的外傷と回復(*2)、そして毒になる親(*3)は、私の中では密接につながっていて、今の自分の臨床面接の中軸であることには変わりはありません。これらは私だけでなく、多くの臨床家を動かし続けてきた研究です。これらの研究の導きがなければ私のカウンセリングは暗礁に乗り上げていたでしょう。

毒になる親(Toxic Parents)、略して毒親ですが、この言葉も定着しました。今はこの言葉が氾濫してしまい、毒親でないはずの親にも毒親というネーミングが付いたりしています。このへんは発達障害とラベルするのと似ているようですね。ネット社会の不確実な情報がまん延している影響ともいえるかもしれません。

毒親という言葉をどういう親に対して使うのか、そういうことを注意深く定義しておかないといけないのでしょう。常にカウンセラーはそのことを意識しているべきです。そして、その言葉を使わなくても、この人の親は毒親だな、この人の親は違うな、そのようにこころの中で判断をしていけるようになると、見立てが確実に立てられるようになります。

さてスーザンの親は、どうだったのでしょう。彼女は自分を振り返りながらこの本を書いたと思います。しかし自分とは違うジャンルの人まで含めてしまっているように思います。そのため、その後、世に出た「AC(Adult Children)」という言葉の定義が非常に曖昧になってしまいました。もっと彼女自身のことにフォーカスすればよかったのにと思います。そうすると、愛着の問題が大きく浮上したでしょう。ACの定義も、もっと限定されたものになったでしょう。

この曖昧さはBPD(境界性パーソナリティ障害)の曖昧さにも通じ、また愛着障害の曖昧さにもつながってしまいました。境界性パーソナリティ障害で著名な先生、愛着障害で著名な先生、彼らの書く本の内容は、外してはいないけれど、どうにでも取れるという記述も少なくありません。これらは不幸なことだったと思います。そんな背景を思いつつ、これからは愛着障害について再定義が必要な時期に来ているのでしょう。

◇スーザンから現在まで、毒親の変遷

スーザンの著書をもう少し詳しく見ていきましょう。彼女は「完全な親は存在しない。ときどき子どもに悪影響を及ぼす親は、普通である」としています。スーザンのいう普通な親とは、

  • 大声を張り上げることもある
  • 子どもを支配しすぎるときもある
  • お尻をたたくこともある

それとは違って、次のような親が毒親と定義しています。

  • 子どもを【否定する行動】が【長期間継続】し続ける

この定義は、重症度(否定する行動の程度)と継続性(長期間継続)に着目して虐待かどうかを判定する、虐待の定義と同じと考えられます。重症度と継続性については次の記事をご覧ください。

すると、スーザンが著書「毒になる親」で言及しているのは、【虐待】のことであることが見えてきます。スーザンの母親は典型的な虐待をする親で、その母親を毒親の定義とするなら、【毒親は子どもを虐待する親】と同義みてもいいでしょう。著書のタイトルの一部になっているToxic Parents (毒親)=maltreatment(虐待)のことだったのです。

さて、2004年、「天国に一番近い島」の作家である森村桂が、母親との確執を抱えたまま病院で自殺しました。

また2008年頃から、世界的に、子どもを支配する母親のことを書いた本が出版されていきます。キャリル・マクブライド「毒になる母ー自己愛マザーに苦しむ子ども」、信田さよ子「母が重くてたまらないー墓守娘の嘆き」、斉藤環「母は娘の人生を支配する」、佐野洋子「シズコさん」等。

この頃から登場する親は、重症度と継続性の虐待の定義からすると、そこに入らない親たちです。つまり毒親の範囲が広がり出したのです。

典型的な虐待(無秩序な)親(maltreatment)とはいえず、もっと「広い意味での不適切な(理不尽な)親」です。では、虐待よりも広い範囲のものとは、心理学的にはどういう親たちが該当するのでしょうか。それは、

  • 不安型(E型)愛着スタイルをもつ親

です。彼らの多数が毒親の定義の中に取り込まれていったのです。これがスーザンから現在(2021年)に至るまでの毒親の変遷です。

◇不安型愛着スタイルとHSP

毒親からは少し離れますが、不安型愛着スタイルを持つ人の中には「HSP」の傾向を示す人がいます。ですから「自分はHSPでは?」という疑問を持って相談に来られることがあります。

しかし実際はHSPが問題になることはなく、不安型愛着スタイルなのです。親が不安型愛着スタイル(E型)だと、子どもは両価型愛着パターン(C型)になり、その子どもが成人に至ると、不安型愛着スタイルを持つことが(まれに)あります。E型愛着スタイルとC型愛着パターンとについては、参考記事をご覧ください。

◇愛着に関する3つの分類

カウンセリングを行ううえでこの毒親については3つのポイントを明らかにしておくことが必要です。それは、カウンセラーにとってだけでなく、相談に来ている本人にとって、そして親自身にとっても重要なのです。その3つとは、

  • ①愛着障害→親は毒親です
  • ②愛着不全(不安型愛着スタイルをもつ親)→親は毒親とはいいきれないが、子どもはとてもしんどい。最近は、この不安型愛着スタイル(E型)を持つ親も毒親へ含めるカウンセラーもいますが、毒親認定は注意深くすべきでしょう。
  • ③愛着のこじれ→親は毒親ではありません。親子関係が思春期の頃、つまづいた形です。

毒親と言われた親が変わっていけるとしたら、②愛着不全(不安型愛着スタイルをもつ親)の場合と、③愛着のこじれの場合です。愛着障害の原因になっている親は、残念ながら変化しそうにありません。なぜなら、その親は、重篤な精神疾患があるか、脳の器質的な問題があるからです。ですから、心理的なアプローチでも、薬物療法でも変わりようがありません。

この3つのことは私が臨床心理士として2万人の話を聴き続けてきた中で、彼らから学ばせてもらったことです。書籍や研修での学びもありますが、実体験の中で得た学びが大きいです。

  • 愛着障害とは、養育者との愛着が切断されている状態です。愛着障害と診断される場合はここに入ります。回復の道筋は、この記事の後半で解説します。この場合、養育者は変化しませんので、養育者を乗り越えていくことです。「愛着(絆)はなかった」という事実を受け入れられると、回復はスピードアップします。
  • 愛着不全(不安型愛着スタイルをもつ親)とは、養育者との愛着形成は成されているが、それが不完全だった状態です。「栄養が貧弱なジャンクフードのような愛」です。キーポイントは愛着は存在しているのです。欠損しているわけではない。ここに希望と絶望があります。希望としては「愛着があった」、絶望としては「それが不完全だった」。この葛藤状態を生きることになるので、地獄のような苦しみの中に放り込まれます。カウンセラーは相談者と一緒にその地獄を体験していくことになります。
  • 愛着のこじれとは、愛着はあるし、普通に育ったという状態です。そうではあるが、なんかぎくしゃくしている、そんな母子関係です。この場合の親は、毒親ではありません。母親も、「自分は毒親かもしれない、どうすればいい?」「毒親にならないためにはどうすれがいい?」と心配している状態です。そのように反省・心配する親というのは、元来、毒親からは遠い存在なのです。

異邦人2世という関連記事を書いていますが、その異邦人2世が、この【愛着のこじれ】関係に当たるでしょう。要(かなめ)は、【実は親が被虐者だった】という事実です。


Referenceに引用してある関連記事、藤圭子と宇多田ヒカルの関係 *I)〜*IV) を参照していただくと、宇多田ヒカルがこの「愛着のこじれ」に当たります。ですから、宇多田には障害がないことがわかります。藤本人が愛着障害だったのです。この場合、カウンセラーが、相談者の気持ちを整理していくと、回復はスピードアップします。

Colorful cactus
「花束を君に」は、ヒカルが母に捧げた花束です

■愛着の回復【カオナシ】

その人は、最近ご自身でそのように気づいています。カオナシとは、千と千尋の神隠しに出てくる妖怪です。その名の通り、顔がありません。昔風にいうと、のっぺらぼうです。

他人とSNSしていても、向こうが親しくしてきそうなときは、ものすごい早さで、これ以上親しくならないように即効でブロックします。自分の中で急いでその関係を終わらそうとします。

自分気持ちと相手の気持ちが、ちょうど二人の中間地点辺りで話しているときはいいのですが、相手の気持ちが私のほうへ数ミリでも近寄ってしまうと、バランスが崩れてしまい、うろたえてしまうのです。髪型変えたよね、とか、自分に注目されるとダメなんです。注目されたくないんです。相手の意識が自分に向いてほしくないんです。

会社でも、複数の人から言われてきました。

「近づいた関係ができそうになると遠ざかる人だね」
「恋愛はいいけど結婚タイプじゃないね」
「千と千尋の神隠しに出てくるカオナシに似てるね」
「誰とも接せずに一人で生きていくタイプだね」

愛着の苦悩をもった人は、そのように生きている人が多いのです。カオナシとよく言われます。身に覚えのある方もいらっしゃるでしょう。これは他人への(基本的)信頼感が欠如しているためです。恐怖を生きるために、そういう表情のない表情になるのです。

彼らの回復のキーワードは、紛れもなく【愛着の回復】です。

カオナシの正体については、ネット上で色々な意見がありますね。宮崎駿監督自身も「誰のこころの中にもいる」と話しています。監督としては、キャラクターに汎用性を持たせたかったのでしょう。心理学的に、愛着の視点からカオナシの行動を観ていくと、カオナシは被虐児と考えると、しっくりきます。私の深読みかもしれませんが。

■安全感=基本的信頼感の回復

人間は、この世界で生きるための基本的信頼感を2歳くらいまでに、養育者の間で構築していきます。そのためには養育者からの働きかけが必要なのです。この信頼感が脆弱だと、世界が怖くて対人関係において親密な関係を作れなくなります。対人恐怖になってしまいます。

信頼関係の構築という体験を幼少期に持たなかった人々は、社会的ネグレクト環境にさらされていたということです。社会的ネグレクトは虐待問題の本質を突くものです。DSM-5で正式に提唱された概念です。これからもっと広がっていくでしょう。

「ママ友と話していて気づいたことがあります。会話をしていて距離が近くなるとワ―と焦って自分で主導権を握って話を終わらせていました。そうやって距離が遠くなるとスッキリしていたのですが、自分の気持ちに、恐怖だけではなく、ものすごい怒りがあることが分かりました。死にそうなくらいイライラしてくるのです。もう無理!となるのです。人と一緒にいることに耐えられなくなるのです。」このように話す人は、安心感のない人です。

愛着の回復とは、安全感、信頼感の回復なのです。では、具体的にそれらの回復を得るにはどのような環境が必要なのでしょうか。それを次で説明します。

■幾重にも守られた環境~毒親からの回復

Anemone fish
何重にも守られて、生命は生きることができます

ある人の語りは続きます。

その怒りは、「親が私を無視してコケにしてきた、許せない!」そういう怒りなのです。外からみると虐待というほどではありません。毒親は罵詈雑言を浴びせたりするわけですが、彼らは心底、私に無関心なんです。毒親とは子どもをコントロールして自分の好きなように、奴隷のように使う親ですが、私の親は、その毒親ですらないのです。
この「毒親ですらなかった」という絶望感に最近気がつきました。毒親だったら良かったのに。

この人は、毒親という言葉に最後の望みを懸けていましたが、それすら無くなってしまったのです。深い絶望の淵に追いやられてしまいました。

この人は社会的ネグレクトのことを話しているのですが、こういう人が回復していくための3番目に必要なポイントは、安全な関係性です。どういう関係の中でそれを培っていくか?それは、

  • 子どもとの関係
  • パートナーとの関係
  • カウンセラーとの関係

この【2重、3重にも保護された関係性】の中で、ゆっくりと愛着が回復していくのです。

■まとめ

毒親から回復には3つの側面があることをお伝えしました。

  • 何重にも守られた関係性―子ども、パートナー、カウンセラー
  • 安全感の回復
  • 愛着の回復

順番としては、守られた関係性→安全感の回復→愛着の回復 というふうに進んでいきます。

毒親との関係はどのようになっていくのが回復なのでしょうか。1つの参考例として、関連記事をご覧ください。

ぶらり、宵まち、さんぽ道 (番外編)~ジャンクフードの愛

昔、ベビースターラーメンを食べていた人にとっては、郷愁とともに、ときどきまた食べたい気持ちが襲ってくるかもしれません。私も60代をすぎて糖尿を患っても、ベビースターの味を思い出すときがあります。ジャンクフードにはそんな依存的な麻薬的な効果があるのですね。

今回は毒親の話でしたが、不安型愛着スタイルの毒親にも、そんなジャンキーな味わいがあります。栄養のある食べ物は正統派で「食べるべき食材」ですが、食べるべきではないジャンキーなものに惹かれることもありますね。だから毒親から離れることが難しいのでしょう。

all about編集部による毒親9選。子どもへの①管理②支配③押し付け④過保護⑤過干渉⑥呪いの言葉⑦子どもを抑圧して罪悪感を植え付ける⑧成人になっても就職へ口ち出し⑨恋愛へ口ち出し。年数かけてジワジワ効いてくる感じ。毒は毒でも、致死でなく子を弱体化する【支配親】。不安型愛着スタイルの親とも言えます。(ツイート改訂)

繰り返しになりますが、毒親は何か特別な定義があるわけではないので、非常に曖昧な概念になりがちです。ツイートにある9タイプは、ネット上では比較的信頼性の高いall about編集部(*4) による「毒親とは?特徴・チェックリスト!あなたは毒親になってない?」の記事から抜粋しました。

この9タイプを見渡すと、毒親とは、一言で表現すると【アダルトチルドレンの親による支配】ですね。かなり毒親の間口を広く取っています。

一方、不安型愛着スタイルの人の特徴は、【相手に合わせる、見捨てられることへの不安が強い、すぐに恋愛関係に入りやすい、甘えたい、依存体質である、パートナーに手厳しい、求める気持ちと拒絶する気持ちが併存している】などです。下記は参考記事です。

こうやって見てみると、毒親を広くとった場合の特徴と不安型愛着スタイルの特徴は、かなり類似しているのではないでしょうか。毒は毒でも、即死ではなく弱体化を狙う毒です。

それも親が意識的にやっているわけでもなく、子どもも影響を受けていることに自覚がありません。そうやって長い年月をかけて、親から子どもへ影響を及ぼしていきます。「毒」とまでは言い切れない、愛は愛でも、栄養が貧弱なジャンクフードの愛です。

ジャンクフードは、食べられるものから、食べないほうがいいものまで幅が広いです。不安型愛着スタイルも似たようなテイストがあるといえるのではないでしょうか。

Reference:

*1)ボウルビィ:I 愛着行動 (母子関係の理論 (1) 新版), 岩崎学術出版社, 1991
*2)ジュディス・L. ハーマン:心的外傷と回復, みすず書房, 1999
*3)スーザン・フォワード: 毒になる親 一生苦しむ子供, 講談社, 2001
*4)all about 編集部:毒親とは?特徴・チェックリスト!あなたは毒親になってない?, 2020, https://allabout.co.jp/gm/gc/479721/

関連記事

*I) 藤圭子とその娘、宇多田ヒカル~境界に生きる人々(愛着障害) 
*II) 人は愛着を切って死んでいく。残された人は長い喪の作業に赴く。
*III) 宇多田ヒカルと藤圭子の愛着の母子関係【マツコの知らない世界】 
*IV) 被虐者の子どものカウンセリング【宇多田ヒカルと藤圭子の親子関係】

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