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ソレア心理カウンセリングセンター

2021.01.11(更新日:2021/01/18) |愛着とトラウマ(虐待)

本当に【虐待】されると脳が破壊されるのか?最新の研究に迫る


臨床心理士・公認心理師の高間しのぶです。





・虐待を受けて育ったためか、いろいろなことができない自分に絶望する
・一生このままボーっとして生きていくのだろうか?
・虐待を受けると科学的にはどのような状態になるのか?





そんな不安や疑問を持って生きているあなたに、虐待された脳は復旧可能であることを理解できるよう、記事にしました。これまで、のべ2万人の悩みを聴き続けているマインドフルな心理師が、日々の臨床の中から得た知恵を、みなさんとシェアします。この記事のポイントは、





  • 虐待は脳の活動を低下させるが、復旧は可能である(前半)
  • ニュース!:脳が再生するための細胞が発見されました。(後半)




前半部分は動画でも配信しています。記事にプラスアルファしたことを話しています。









■被虐待者の脳科学研究から





「虐待が脳を変える」などで著名な友田明美氏の論文(*1)を見ながらポイントや問題点を解説します。この論文は彼女のエッセンスといえるものです。参考文献にPDFのURLを張っておきますので、全文閲覧も可能です。





◇虐待による脳の萎縮は治る





「虐待によって脳が萎縮したり機能低下したりする。しかし、原因はわからないが、脳の萎縮は治る」これが友田氏の論文の結論です。脳機能低下は治るのです。ここが発達障害とは決定的に違うところですね。





発達障害は生まれついての機能障害ですが、虐待はそうではないから、機能が低下しても元へ戻るのです。言われてみれば「そうなのだろう」と納得はできます。ただ、この論文からは、どうして脳萎縮が回復するのかの説明がありません。





◇破壊でも、萎縮でもなく、活動低下









虐待は脳が破壊されることはありませんが、脳を萎縮させてしまうという深刻な影響があります。なぜなら萎縮によって、脳の活動が低下する不都合が出てくるからです。





萎縮というとショッキングな言葉ですが、萎縮というより【活動低下】と言ったほうが的確でしょう。機能が失われたわけではないので、機能低下という言葉より、活動が低下というほうがいいでしょう。つまり、脳の反応が低下してしまうのです。それによって、WAIS/WISC などの知能検査の結果も低下します。診断画像では萎縮しているように見えても、元へ復元されるわけですので、萎縮というより、「炎症ー活動低下」というラインで考えるのが妥当ではないでしょうか。





脳自体、機能自体が失われたわけではないということです。例えていうと、こころの薬は適量を良いタイミングで使うと効果が発揮されますが、大量に投与されるだけではボーっとして廃人のようになってしまうのと似ています。あれは活動が極度に低下した状態です。虐待された脳も同じことではないでしょうか。





脳の萎縮という言葉を使ってしまうと、脳の萎縮例として真っ先に思い浮かぶのは、認知症です。脳がスカスカに枯れていく病です。こちらは萎縮したらどう頑張っても再生しません。ですから、虐待で脳が「萎縮する」と表現してしまうと、回復不能というイメージを植え付けかねないのではないでしょうか。これでは正しいことを伝えられなくなってしまうので、科学者が脳の萎縮という言葉を安易に使うべきではないのでは、と思います。





画像診断で萎縮しているように見えても、認知症の萎縮と虐待の萎縮では、同じように論じることのできないファクターが隠されているのではないかと思います。





しかし友田氏が、萎縮した脳が回復することをデータで示した功績は大きいでしょう。





◇どのように脳が萎縮(活動低下)するか?





虐待によって脳の容積が変化すると言われており、だいたいは減ります。これがMRIなどで画僧診断をすると「脳が萎縮」しているように見えるのです。





どうして虐待のようなストレスがかかると脳の形が変わるのでしょうか。それは脳を萎縮させて、脳へ流入する「情報量を減らすための脳の防衛反応」であると考えられます。(ただ繰り返し申し上げているように、情報遮断という意味合いですと、活動低下という指摘でも十分と思います。)





【年齢に関する研究】そして研究によると、ストレスを受ける(虐待された)年齢によって、萎縮させる部位が異なるといいます。つまり、





  • 3~5歳の虐待:記憶と情動にかかわる海馬の萎縮
  • 9~10歳の虐待:左右の脳の情報をつなぐ脳梁の機能低下
  • 14~15歳の虐待:意思決定を行う前頭前野の萎縮




ここで問題点は2つあって、





  • 虐待というのは年齢によって起きたり、起きなかったりするわけではない。例えば、15歳の子どもがいたとしたらそれは、0~15歳までずっと虐待環境であった可能性が高いということ。
  • 【0~2歳の虐待】のデータがないこと。虐待で一番の問題となるところは、2歳までに形成されるはずの愛着が形成されていないことです。それによって人間に対する【基本的信頼感】が脆弱になるからです。




【虐待のタイプに関する研究】また、虐待の種類によって、萎縮させる部位が異なるといいます。





  • 激しい身体的虐待:前頭前野の萎縮
  • 暴言などの心理的虐待:聴覚野の変形
  • 面前DVなどの心理的虐待:視覚野の萎縮




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虐待経験者の脳皮質容積変化




これは予想できるところですね。つまり、暴力をふるわれているときは思考停止しないといけないので前頭前野の活動を停止する。暴言を聴かないように聴覚野の活動を停止。怖いものを見ないように視覚野の活動を停止するのでしょう。それ以外にも【言語野】の活動停止もあるでしょう。つまり、





  • 【見ざる、言わざる、聞かざる】を脳が実行するために、それらの機能の活動を止めていく のではないでしょうか。




これらの活動停止によって、反応性アタッチメント障害の行動が顕著になってくるのでしょう。





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さらに、単一のタイプの虐待の経験は、感覚野(視覚野や聴覚野など)の障害を、複数のタイプの虐待を一度に受けると,大脳辺縁系(海馬や扁桃体など)に障害を引き起こす可能性があるといいます。





ただ、この単一か複数かという区分けもおかしなものかもしれません。なぜなら、暴力が行われている状況では、心理的虐待も、ネグレクトも、社会的ネグレクトも同時に行われている可能性が高いからです。このあたりは、研究が細かくなりすぎて、仮説と事実が入り乱れているような感じもします。





◇脳が活動を取り戻すために必要なこと





子どもの脳は、発達している最中ですから、可塑性という【損傷を受けても元へ戻る力】があります。そのため損傷を受けたら、早めに対処するといいという結論になるのは、うなずけます。





では回復には何が必要なのでしょうか。以下のものが必要といいます。矢印のあとは高間の意見です。





  • 安心・安全な環境⇒これは最重要課題でしょう。
  • 自分に起きていることの理解(心理教育)⇒ここは慎重に。なぜなら子どもは家がないと生きていけないから。たとえそれが虐待環境を作っている家族であっても必要なものだから。大人であれば、この心理教育は重要。
  • 過去の体験と感情を安全な場で表現する⇒注意しないと治療トラウマを作ります。こういう無茶な治療は極力さけなければならないのが、愛着臨床と思います。友田氏は、EMDRを想定しているのでしょうか?
  • 健康に生きるためのライフスキルを習得する⇒重要ですが、これは治療がかなり進んでから、脳の活動が戻ってきてからと思います。




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具体的な治療として挙げられているのは、下記です。矢印のあとは高間の意見です。





  • トラウマ処理や愛着形成のための心理療法やプレイセラピー⇒愛着形成のセラピーは子どもも大人も重要です。ですからプレイセラピーだけに限りません。トラウマ処理も必要ですが、そこは愛着形成されていけば自然と治癒していく領域ですので、あえて用いなくてもいいかもしれません。私はそのように治療しています。
  • 内的世界を表現することによる自己治癒力の活性化⇒【気づき】ということです。これはどのカウンセリングでも用いられることです。
  • 必要に応じた薬物療法⇒虐待を受けた人は、一般的に睡眠障害があるので、それに手当てするための薬物療法は限定的に必要であるかもしれません。しかし、薬で治るものではありませんので、数週間レベルの限定的な使用にとどめるべきと思います。




実際、トラウマと関係が深いと言われる「慢性疲労症候群」の成人患者に心理療法(例えば認知行動療法)を行なったところ、9カ月で前頭前野の容積が増加したという結果が報告されています(*3)。





■萎縮した脳は再生するかもしれない【2020年の最新研究】





次のようなツイートをしています。






2020年、理化学研究所は、脳は再生する可能性があるという発表をしました。いままで脳は可逆性があると言われてきましたが、どのように再生していくのか分からなかったのです。
キーになるのは【神経幹細胞】。認知症は予防できても回復しないと言われてきましたが、それは都市伝説になるかも?







【神経幹細胞】は、萎縮した脳の再生に寄与する細胞です。虐待なども脳を萎縮させると言われていますが、神経幹細胞が活性化する構造が分かってくれば、その条件を整えることで虐待からの回復条件も見えてくる可能性があります。そのことで、より的確な心理アプローチがとれる期待感が高まります。






理化学研究所は、2019年12月24日、哺乳類の脳が作られる際に【神経幹細胞】が柔軟に「形」を再生する仕組みを発見しました(*4)。この発見は、2020年3月に海外へ向けて発信され、大きな注目を集めました。日本発の脳科学に関する最前線の研究です。





脳の神経細胞はいったん破壊されると再生しない、という常識があります。だから頭蓋骨や髄膜(ずいまく)により幾重にも守られているのです。





しかし、外からの衝撃だけでなく、アルコールや薬物などによっても神経細胞は損傷します。それによって、神経細胞の数が減少するのです。つまり脳が萎縮するのです。脳の萎縮とは神経細胞の減少のこと。またアルコール依存や薬物依存の人は、若くして脳の萎縮があり、脳の機能が低下している状態です。





理化学研究所は、大人の脳の中に、神経細胞になることができる【神経幹細胞】を発見しました。これまで神経幹細胞は胎児や新生児の脳にしか存在しないと考えられていました。発見したものの今はまだ、神経幹細胞が大人の脳にとってどういう役割を果たしているのかは分かっていません。





脳の機能は、神経細胞の数だけが重要なのではありません。脳が萎縮していても、脳は機能的に働くこともあるからです。これはどういうことかというと、脳の機能では、神経細胞の数だけでなく、神経細胞間のネットワークが重要なのです。神経幹細胞によってそのネットワークが復活するのか、今後の研究が待たれます。それが可能であることが分かれば、高次脳機能障害や認知症、統合失調症などによって脳が萎縮した人々にとって、新しい光となるかもしれません。トラウマによる活動低下にも寄与するでしょう。





これは心理的なアプローチにも影響を及ぼします。なぜなら、神経幹細胞を成長させる条件などが見えてくれば、それを援助するための効果的な心理アプローチもあるかもしれませんから。例えば、どのような安心感が有効であるか?とか、です。





■まとめ





最新の脳科学の研究から、虐待についての研究を紹介しました。ポイントは、「虐待によって脳が萎縮したり機能低下したりする。しかし、原因はわからないが、脳の萎縮は治る」ということです。脳の萎縮というのはちょっと怖い話ですね。萎縮したらたいてい治りませんから。そういう表現ではなく、機能が低下あるいは【脳の活動が低下する】と言い換えたほうがよさそうです。





そして、活動が低下した脳は、通常の活動に戻すことができます。そのためには、安心な環境の提供と心理教育が大切です。これは私も最重要事項として関連記事を書いています。友田氏の論文と一致するところです。





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2020年、脳の再生のキーとなる【神経幹細胞】が、日本の理化学研究所で発見されました。脳機能回復への明るい道筋が見えました。今後の研究が期待されます。





※児童虐待について10本の記事をまとめたものを書いています。そちらから各関連記事に飛んでいただくと網羅的にゼロから理解していただけます。





▼虐待について【まとめ記事】
虐待されてきた人々がゼロから生きるために知っておくべき10ステップ【まとめ】





残念ですが、虐待はなくなりません。私たちにできることは、





  • 虐待されている人々をいかに救い出して、いかに回復させるか です。








Reference:





(*1)友田明美: 被虐待者の脳科学研究, 児童青年精神医学とその近接領域, 2016, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/5/57_719/_pdf
(*2)Takiguchi S, Fujisawa TX, Mizushima S et al.: Ventral striatum dysfunction in children and adolescents with reactive attachment disorder: Functional MRI study. Br J Psychiatry Open, 2015
(*3) de Lange FP, Koers A, Kalkman JS et al. : Increase in prefrontal cortical volume following cognitive behavioural therapy in patients with chronic fatigue syndrome. Brain, 2008
(*4) Riken: Stem cells exert tight control over the timing of brain development, 2020 https://www.riken.jp/en/news_pubs/research_news/rr/202000313_2/index.html(理化学研究所: 神経幹細胞の再生能を発見, 2019 Dec. 24 )





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