愛着障害の人は、スナフキンの文法を使って、空や風の言葉を紡ぐ

Cielo azul con nubes 愛着とトラウマ(虐待)
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・こころに傷のある人の話す言葉は、何か浮世離れしたような会話だ
・ムーミンでは、スナフキンの生き方に惹かれるのはなぜだろう

ムーミンのスナフキン。彼はわき役ですが、ムーミンの物語に深い味わいを与えています。スナフキンを好きな人は多いですね。というより、嫌いな人に出会ったことがないくらい。彼の何に、これほどまでに魅了されるのか。
この記事は、スナフキンの生き方に焦点を当てた、もう一つの別の、スナフキン物語です。

  • これを読むと、スナフキンの話す言葉の文法の秘密がわかるかもしれません。
  • 彼の言葉の、もっと深い意味に触れることができるかもしれません。そこに彼の生き方を見つけることができるでしょう。

この記事は、のべ2万人余りの悩みを聴き続けているマインドフルな臨床心理士が、愛着障害の臨床から学んだことを中心に、最新の知見をお伝えします。

つまり、愛着障害という視点から読み解いた、スナフキンの、もう一つの物語としてお読みください。

具体的には、次の2つのことを解説します。

  • スナフキンの文法を使って、空や風の言葉を話しながら生きる人はいったい誰なのか?
  • かつて愛着障害だったと想定される?スナフキンの名言。

■スナフキンの文法を使って、空や風の言葉を話しながら生きる人は誰か?

次のようなツイートをしています。

愛着障害の人は詩人です。なぜなら、愛着が切れて育った人は、言葉遣いがちょっとヘン。言葉を失っているからです。だからどうしても詩のような表現になりがち。だから歌詞とか書くのは得意かもしれません。そんな彼らは回復の途上で言葉を取り戻していきます。(改訂)

Cielo azul con nubes
空の言葉

愛着障害の人は幼少期に、その虐待の体験によって、この世界は恐怖だと映っています。また、この時期は言語獲得の真っただ中です。
そうすると、恐怖をベースにした文法(言い回し)になるのは想像できるでしょう。他の人の使う言葉と、使い方も、文法も、意味も、微妙に違ってきます。なぜなら言葉というものは、人と人との「響き合う」関係性の中から生まれてくるものだからです (*1)。その関係性がはく奪された状態では、言葉は生まれようがないのです。

愛着障害の人がどういう言葉遣いになるかというと、非常に感覚的であり、詩的な文体になる傾向があります。一般にはちょっとズレている感じ、クールな感じ、その言葉が意味するところが分かりづらい感じ。

詩というものは、ひとたび言葉が発せられると、読者が、その言葉の周囲の世界を勝手に想像して作り上げてくれます。このように想像力を要求されるから、詩というものは理解しづらいのですね。歌詞の分かりづらさも、この理由です。

一方、小説は、架空の世界を小説家のほうで作り上げて読者へ提示していきます。この視点からいうと、分かりやすい歌詞は、小説的であるといえるのでしょう。この工程の差が、詩と小説の差です。

愛着障害の人は、自分の生きている世界が恐怖に満ちているので、のんびりとその世界を記述している余裕などないのでしょう。そんなことをしていては一気に殺られてしまう。だから、表現が一気に【詩】へ傾いてしまう。

しかし詩人でも小説を書く人はいますね。そういう人は、2種類あるかと思います。次の通りです。

  • もともと小説家の言葉で考える人で、綿密に説明して感情を喚起させていくという作業を削り取って、詩として提示しているタイプの人。
  • もともと詩人の言葉で考える人で、詩を書いているうちに小説を書けるようになった人。

わたしの想定では、スナフキンは後者であると思っています。詩人がベースの人ですね。詩人が小説も書けるようになったが、小説は書かず、あいかわらず詩を紡いでいるような。それが彼の生き方です。

この行程は、愛着障害の人が治っていく過程そのものでしょう。つまり、スナフキンは愛着障害を克服した人の姿であるのでしょう。精神科医の高橋和巳先生の著作でもスナフキンは異邦人、つまり愛着障害の人という位置付けがされています(*2)。

■かつて愛着障害を生きた?スナフキンの名言

Una espiga en el viento
風の言葉

スナフキンの名言集 (*3) という本があります。日本ではスナフキン、人気ありますからね。彼の吟遊詩人のような雰囲気が、日本人の原風景の感覚をくすぐるのでしょうか。漂泊していく感じ。鴨長明や松尾芭蕉、山頭火と同じですね。

▼スナフキンの名言50選!見逃すな!生きづらい人へのヒント【完全保存版】

ここで紹介されている名言の中から、彼のちょっとズレた発言を選んでみました。この選択眼には、愛着障害の人が回復していったらきっとこうなってほしいという私の期待も、少し入っています。

◇愛着障害のかほりがすることばたち

【スナフキンを愛着障害からの回復者と想定して】読んでみてください。これは、彼のもう一つの物語です。
回復しても、そのときの香りはずっとひきずって生きていくということです。しかしそれが、普通の人には愛されるのです。

  • 長い旅行に必要なのは大きなカバンじゃなく、口ずさめる一つの歌さ

私の著書「孤独と愛着」(*4)には超ミニマリストの人の話があります。その人は、ある事情があって全国を移動しています。いつでも移動できるように、持ち物は両手の紙袋に持てるだけのものしかありません。ベットと机はその土地で知り合った人にあげていくそうです。

机というのが面白いですね。「モノというものはすぐに手のすき間からこぼれ落ちていくけれど、知識や体験というものはずっと私の中に残っています。だから机は必要なのです。」と話します。まるでスナフキンが話しているような言葉です。ある一流大学のペルシア語を専攻した人でした。

その人にとっては、机というものが、スナフキンの「口ずさめる歌」なのかもしれません。ペルシア語というのも、超マイナー、ミニマルな風を感じますね。

わたし自身のことを振り返ると、多くの歌を聴いてきて、演奏もしてきましたが、最後に残ったのは、自分の作ったフォークソングでした。たぶんこの歌とともに長い旅を終えるのでしょう。

  • 僕は物心がついたときからたった一人で旅を続けてきた。多分、これからもそうするだろう。それが、僕にとっては自然なことなんだ

彼は物心ついた頃からひとり。つまり幼少期から「ひとり」なんですね。そういう感覚で生き続けている。これは愛着障害の人そのものの感覚です。

ひとりは孤独ですが、孤立はしていません。彼はムーミン谷ではヒーローです。でも彼は日が暮れる前にムーミン谷をあとにして山麓でテントを張ります。そして一人分の夕食を作って食べる。決してムーミン谷で寝泊まりしません。

愛着障害の人は回復しても、この孤独が抜けることはありません。それは「不幸せなことではないから」抜けないのです。結婚して子どもができたとしても、やっぱり「ひとり」という孤独の中で生きている。それがスナフキンの生き方です。

スナフキンはこう続けるかもしれません。【僕は、僕の孤独が好きですよ。】

  • 故郷は別にないさ、強いて言えば地球かな

私の著書には人工衛星の人の話もあります。その人は、自分が人工衛星で、故郷である地球を見下ろしています。その人の故郷は地球なのですが、一生、人工衛星だとも分かっています。地球には住めないのです。住めないけれど、なんとか地球にくっついているわけです。人工衛星として。

そういう微妙な力学関係の中で生き続けている人として、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンは、スナフキンをムーミンに登場させたのでしょう。トーベ自身の性的マイノリティが、彼女の生き方に、このムーミンの物語に、どのように影響を及ぼしたかは分かりません。

スナフキンは【なんてことないよ】と笑うのでしょうか。

  • おだやかな人生なんてあるわけがない

そんなふうに言う人は少なくないでしょう。しかしこれは、トーベ・ヤンソン自身のつぶやきでしょうか。ここには回復前のスナフキンが見え隠れしています。「あの苦しかったころ」が見え隠れしながら、遠くから見ている。
ハッピーエンドなんてものはないよ。未来を思っても仕方がない。【あるのは、ただ、今日を流れていく雲と風だけだ。】

  • 僕は世の中のこと全てを忘れて暮らせたらどんなにいいかと思ってるんだ

僕は、人工衛星で周回している人間だけど、いつも目の下には「あの地球」が居座っている。そいつの重力圏にとどまっていなければいけないのは不自由なことだ。それでも僕は、人工衛星で居続ける。ここが僕のふるさとだから。

そんな決意をする、少し手前のスナフキンを感じます。

  • 「そのうち」なんて当てにならないな。いまがその時さ
  • 明日もきのうも遠く離れている

これはフローとかゾーン、マインドフルネス、デフォルト・モード・ネットワーク(*5)そのものを示唆しています。彼は、そのへんのことも理解できるまで回復しており、渡り鳥のように生きていく人生を生き続けています。

彼は自分でそれを選択したわけではありません。彼のもう一つ別の物語を生きているうちに、その飛行術を身につけていったのです。このように【今に生きる】とは、愛着障害の人の回復そのものです。

アホウドリが海上数千キロをフローに飛行するには、孤独といチカラが必要です。フローは健康心理学ですが、愛着とトラウマの臨床心理学にも深く関わっているものです。だから、そうやって回復への道筋を示すことも大切なことでしょう。

▼【目標を達成する罠】鳥の視点を持って選択し続けるフローな生き方

■まとめ

愛着障害の人の言葉は詩人の話す言葉だという理由と、漂泊の詩人であるスナフキンの言葉を、愛着障害の視点から解説しました。

孤独に、今に生きることができれば、あなたも、もう一人のスナフキンです。

Reference:

(1) やまだようこ: ことばの前のことば (ことばが生まれるすじみち 1), 新曜社, 1987
(2) 消えたい: 高橋和巳, 筑摩書房, 2017
(3) トーベ・ヤンソン: スナフキンの名言集, 講談社, 2010
(4) 高間しのぶ: 孤独と愛着~ダブルファンタジーへ生きのびる人々, ギャラクシー出版, 2016
(5)茂木健一郎: 脳を使った休息術, 総合法令出版, 2017

愛着障害のカウンセリングは、ソレア心理カウンセリングセンターへ、

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