【虐待】の種類は4種類+社会的ネグレクト:それぞれの特徴を解説

Afternoon light on a cracked wall 愛着とトラウマ(虐待)
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こんにちは、臨床心理士の高間しのぶです。

・虐待とはどういうものか、どの虐待が多いのだろう
・虐待の具体例を知りたい。その虐待によってどんな症状が出てくるのだろう
・自分は虐待されてきたのか、よく分からない

そんな疑問を持って生きているあなたに、何かのヒントになればと思い、記事にしました。この記事のポイントは、

  • 虐待の分類について解説しました。今回、新しい分類として【社会的ネグレクト】を解説しました。(前半)
  • 各虐待についての詳細を解説しました。(後半)

※この記事は、精神科医・高橋和巳先生の児童虐待の研修で使うガイドブック(*1)を中心にして、高間が臨床で得た知見を若干追加しながらまとめたものです。詳細を知りたい方は、高橋先生の専門家を対象にした研修へご参加ください。申し込みはこちらです。 

■虐待とは?

Afternoon light on a cracked wall
5つの虐待があります

児童虐待防止法(*2)によると、虐待には4つの種類があります。

第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

① 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
② 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
③ 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
④ 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

これらはそれぞれ、①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト(養育放棄)、④心理的虐待 と言われているものです。虐待を語るとき、だいたいこの4つの類型に基づいて話されるのが慣習となっています。しかし、この4つ以外に、もっと本質的な虐待行為があります。それを見落としていると虐待の本質が見えてこなくなります。子どもを家族に戻すのかどうかの判断が鈍ることがあります。その虐待行為とは、

  • ⑤社会的ネグレクト

◇社会的ネグレクトとは

現在世界で広く用いられているアメリカの精神医学の分類に、DSM-5(*3)があります。ここの、心的外傷およびストレス因関連症候群(PTSD)のカテゴリーの中に、社会的ネグレクト (Social Neglect) という言葉が初めて登場しました。ちょっとわかりづらい言葉ですが、社会的ネグレクトとはどういうネグレクトなのでしょうか。

DSM-5では、虐待があったことを示す障害に「反応性愛着障害」(Reactive Attachment Disorder)と「脱抑制型対人交流障害」(Disinhibited Social Engagement Disorder)が掲載されています。

これらの特徴の1つとして、不十分な養育ということがあげられています。具体的には、

  • 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が、養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたははく奪

とあります。これらを分かりやすくいうと、

  • 母子間の情緒的な交流が欠如している
  • 母親が、子どもの心理的な状態へ配慮していない、無関心である、無視をしている
  • 母性が希薄である

このような社会的ネグレクトによって、子どもは慢性的な緊張・不安に陥ってしまいます。このこころの傷は、彼らの成長に大きな影を落とし、大人になってから対人関係においてうまくつながれなくなってしまいます。同時に、多彩な精神的な症状も発症します。関連記事もご覧ください。

▼関連記事
私は虐待されたの?最も多い5番目の虐待【社会的ネグレクト】を生きる人々

◇虐待の件数

さて、虐待の件数(*4)はどのくらいなのでしょうか。令和元年度中に、全国215か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、

  • 193,780件(令和元年度)

20万近い数になっており過去最多です。傾向としては、心理的虐待の相談件数が増加しています。理由は、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力がある事案(面前DV)について、警察からの通告が増加したからです。

各虐待の種類の比率をみると、令和元年度は心理的虐待が最多となっています。10年前と比べると、目に見える身体的虐待が減って、第三者からは分かりづらい心理的虐待が増えています。

  • 心理的虐待 (56.3%)
  • 身体的虐待 (25.4%)
  • ネグレクト (17.2%)
  • 性的虐待 (1.1%)

※社会的ネグレクトについては、新しい虐待概念であり、また識別が専門家さえ非常に難しいこともあって、これらの調査には現れていませんが、上の4つの虐待すべての背景にあるものです。

■虐待についての詳細解説

Mother and daughter in blur
虐待の具体例は…

ここでは各虐待についての多い順から具体的に見ていきましょう。これらに該当した場合と、虐待かもしれないとまずは疑ってみることです。虐待かも?と思ったら、まず児童相談所へ電話をしてください。

◇虐待に関する相談は

  • 児童相談所虐待対応ダイヤルは、【189】(いちはやく)全国共通です。

令和元年12月3日から通話料が無料になりました。ここへ電話をすると、近くの児童相談所につながります。通告・相談は、匿名で行うこともでき、通告・相談をした人、その内容に関する秘密は 守られます。ここで注目してほしいのは、「相談」もできるということ。子どもの悩み相談でもいいということです。

  • 子育てがつらくてつい子どもに当たってしまう
  • 近くに子育てで悩んでいる人がいる

「児童相談所へ電話をしたが、間違っていたらどうしよう」そんなふうに思う人もいるでしょう。誤報でもいいのです。実際、誤報はたくさんあります。それが誤報かどうかの判断は、専門家でさえ難しいので、「虐待かも?」と思ったら、ひとまずは児童相談所への情報提供ということで電話をしましょう。

※児童を発見した場合、 全ての国民には通告する義務が定められています。(児童福祉法第25条)

◇心理的虐待

  • 子どもをいつも批判し、否定する。脅したり、まったく褒めたりしない。
  • 兄弟間で著しい差別がある。
  • 小さい頃から親のグチをずっと聞いてきた。
  • 親のヒステリーが止まらない。暴言がひどい。
  • 子どもが女性になることを否定された。生理になったとき対応してくれなかった。
  • 夫婦間の暴力が継続的にあり、その現場を子どもがいつも見ている。

心理的虐待を子どもが受けていると、子どもは集団にとけこむことができなくなります。幼稚園の頃から、友だちができなかったり、不登校(登園渋り)になったり、強迫性障害になったりします。10代になると、摂食障害、リストカット、不眠などの症状が出始めて、大人になると、慢性うつ病、解離性障害などを発症します。心理的虐待の場合、しばられている感覚、自由が拘束されている感覚によって、パニック症に近い症状を訴えたりもします。

心理的虐待の判定は難しいです。
例えば、自分の母と同じように子どもに切れていることが分かっている人は、心理的虐待ではありません。その人は、なんとかその蟻地獄から抜け出そうと必死です。必死だけれども、勝手に口から子どもを批判し、否定する言葉が出てきてしまうのです。
しかし、このような人は、子どもとの愛着がつながっているので、【子どもが熱を出しそうなときは、その気配をいち早く察します】。
これができるということは、愛着関係が成立しているということですので、心理的虐待ではないのです。虐待をしている人は、この気配など察知することができないのです。

このように、少しの情報で見立てを決めるのではなく、豊富な聴き取りの中から、親が子どもに愛着があるかないかを決めていく必要があります。

◇身体的虐待

  • 継続性:継続的な(数か月~数年)にわたる暴力がある。そしてアザが絶えない。一時的にカッとなって殴るものは虐待ではない。
  • 異常性:首をしめる、熱湯をかける、風呂に沈める、逆さづりにする。

身体的虐待は、継続性と異常性の2軸で考えます。
継続性は、具体的な聴き取りが必要です。【いつ、身体のどこに、どのくらい長く】が重要です。
異常性は、通報では分かりにくいので、子どもから聴き取るしかありません。子どもは親を守ろうとするので本当のことを言いません。聴き取るときは、子どもが話し出すまで、しっかりと待っている姿勢が重要です。つまり傾聴できない相談員は、聴き取れないのです。普段の臨床が試される場面です。

身体的虐待は、命の危険性と隣り合わせなので、異常性が確認できたら、即座に対応することが必要です。家に帰すかどうかを、即時対応せねばなりません。帰してしまって、子どもが亡くなる事件が増えています。相談員の対応ミスといえるでしょう。

◇ネグレクト(養育放棄)

  • 必要な衣食住を与えず、子どもの成長(身長・体重)を阻害する。
  • 病気なのに放置する。
  • 学校の手続きをしない。
  • 生活習慣がない。(歯磨きをする、座って食べる、風呂へ入る等)
  • 戸籍がない。
  • 幼い頃、親が自分を置いて遊びに行っていた。

子どものそれぞれの時期に応じて考える必要があります。
2歳くらいまでは、成長曲線(*5)に沿った成長をしているか確認します。身長、体重、頭の大きさなどです。また、おむつの使い方をチェックして、皮膚が清潔に保たれているか確認します。
幼稚園くらいは、成長曲線、服装、皮膚の状態、食べ方、食事の内容などをチェックします。
小学生では、親が連絡事項をチェックしているか、担任とのやりとりができているかなどをチェックします。

◇性的虐待

  • 親や兄弟が性的行為を強要する。布団に入ってきてわいせつ行為をする。
  • 親の知人がわいせつ行為をする。
  • 性器やセックスを見せたりする。
  • 子どもをわいせつ写真の被写体にする。

性的虐待は、程度の差というものはありません。それが「あれば」虐待であって、それも重度の虐待です。性的虐待にあった子どもは、将来的に、ほとんどが解離性障害を発症し、症状がひどい場合は、解離性同一症(多重人格)になります。治療も長期にわたり、困難を極めます。

◇社会的ネグレクト

ネグレクトは衣食住の放置ですが、社会的ネグレクトは、衣食住はあるが心理的なケアができていない状態です。情緒的な交流ができていません。例えば、

  • 思春期になっているのに、子どもが着るようなキャラクター服を与える。
  • 食事は作るが、与えっぱなしで子どもの好き嫌いに無頓着。「美味しい?」という声かけもない。
  • 布団はあったが、ずっとひきっぱなしになって、干したりたたんだりしたことがない。
  • 病気で休んでいても、平気で用事を頼んでくる。

社会的ネグレクトは、虐待と認定されづらく周囲の人が気づくことはありません。虐待された子どもは自己主張しないので、それが周囲に知れ渡ることもありません。本人も虐待されたという自覚が希薄なので、大人になってから、人間関係の不調で悩んで相談室につながることがあります。しかし、専門家さえも、この社会的ネグレクトを見落としてしまって、適切な対応に至らない場合もあります。

■自分は虐待されたのかどうか分からない

Fogalbrandt
社会的ネグレクトは分かりづらい

ここからは、社会的ネグレクトを受けて育った人々の話です。次のようなツイートをしています。

【自分は虐待されたのか】よく分からないという深い苦しみがあります。
この場合、状況証拠の積み上げです。自分の気持ち、自分の言動、他人との反応、そういうものが全て証拠となります。
ブラックホール探索と同じです。ブラックホールは見えないが周りの空間の歪みで存在を知るのと似ています。

【 社会的ネグレクト 】虐待されたか分からない人は、社会的ネグレクトに多い。
性的、身体的、心理的、養育放棄は分かりやすい虐待です。しかし社会的ネグレクトは養育者との情緒交流が切断されている状態なので分かりにくい。
その状況証拠を1つずつ拾っていく地道な作業がカウンセラーに期待されています。

このツイートのように、社会的ネグレクトは、その話を聴いているカウンセラーに指摘されて初めて浮上してくるようなものです。だから、1つずつ、事実を積み重ねていくことです。そこから社会的ネグレクトをされてきたと分かると、そのときはショックで動けなくなりますが、しだいに光がさしてくることに気がつくでしょう。関連記事もご覧ください。

▼関連記事
私は虐待されたの?最も多い5番目の虐待【社会的ネグレクト】を生きる人々

■まとめ

虐待の法的な分類をまとめました。①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト(養育放棄)、④心理的虐待。ここに5番目の虐待分類である【社会的ネグレクト】を解説しました。

また各虐待についての詳しい解説をしました。自分が虐待されていることも気がついていない人もいます。特に社会的ネグレクトの人々です。専門家は注意して話を聴きましょう。

残念ですが、虐待はなくなりません。私たちにできることは、

  • 虐待されている人々をいかに救い出して、いかに回復させるか です。

※児童虐待について10本の記事をまとめたものを書いています。そちらから各関連記事に飛んでいただくと網羅的にゼロから理解していただけます。

▼虐待について【まとめ記事】
虐待されてきた人々がゼロから生きるために知っておくべき10ステップ 【まとめ】

Christmas lights, Bokeh

Reference:

(*1) 高橋和巳:児童虐待防止 支援者のためのガイドブック(改訂第2版), 2017
(*2) 厚生労働省:児童虐待の防止等に関する法律(改訂), 2007
(*3)DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き, 医学書院, 2014
(*4) 厚生労働省:令和元年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>, 2019
(*5)ファイザー:子どもの成長曲線, ダウンロード可能です⇒ https://ghw.pfizer.co.jp/smartp/c_down/

親との関係が不調と思う人、自分が子どもを虐待しそうと思う人は、ソレア心理カウンセリングセンター(埼玉県)へ

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