・こどもがひきこもっている
・夫がひきこもっている
・ひきこもりの原因は何だろう?
・ひきこもりを解決する方法はあるのか?
ひきこもりの原因と対策、考え方などを解説します。臨床心理士がお伝えするこの知恵は、のべ2万人の悩みを聴くなかで学んできたものです。
前半で「ひきこもりの現状」をお伝えし、
後半で「ひきこもりの原因と対策」を解説します。
ひきこもりへの対応についてとりあえず知りたい方は、【ひきこもりの原因と対策】を先にお読みください。
■どのくらいひきこもりはいるのか?
◇ひきこもりとは
ひきこもりの定義は(*1)
- 仕事や学校に行かず、
- 家族以外の人との交流をほとんど持たず、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態
より詳しく生活状況をみると、下記の状態を送っている人です。
- 近所のコンビニには出かけられる
- 自室からは出るが、家からは出ない
- 自室からほとんど出ない
- 自分の趣味に関するときだけ外出する
◇2019内閣府の調査より
ひきこもり人数は、
- 自宅に半年以上閉じこもっている40~64歳が61万3千人
- 7割以上が男性
- 15~39歳の推計54万1千人を含めると、ひきこもり総数は100万人を超える
ひきこもり期間は、
- 3~5年が21%で最多、
- 7年以上が50%
- 30年以上が6%
子供の頃からひきこもりの状態が続く人のほか、定年退職により社会との接点を失ってひきこもるケースもありました。
ひきこもったきっかけとして、
- 退職や職場になじめなかったなど、仕事が理由の人が30%以上
- 人間関係がうまく行かなかった、という人が20%以上
- 精神疾患をもっている割合が多い
よい面もあって、15歳~39歳のひきこもりの人数は減っています。これはスクールカウンセラーが配置されたことによる減少とみられています。そういう相談の場所がない40歳以上のひきこもりが放置されているのでしょう。
◇ニートとの違い
厚生労働省のニートの定義を分かりやすく言い換えると、
- 15~34歳で、
- 働く能力があるのに働く意思がない
フリーター(無職も含む)とニートの違いは、フリーターは、
- 働く意思はある ところです。
そしてニートとひきこもりの違いは、
- どちらも働いていないという点では同じですが、
- 人との交流があるのがニート、
- 人との交流がないのがひきこもり です。
まとめると、フリーター(働こうとしている)→ニート(働く意思がないが、人と交流する)→ひきこもり (働きたくもないし、人とも交流しない)です。ひきこもりが一番状況的にキツイのです。
◇世界のニート状況
ひきこもりからは少し離れますが、ILO( 国際労働機関)が行ったニート調査があります。日本は28位。1位はトルコです(*2)。
◇世界のひきこもり状況
韓国にはひきこもりが約30万人いると言われ、イタリアでは欧州連合(EU)加盟国で初めてひきこもりの家族会が作られました。家族が同居する傾向が強い、家族主義が優位な国でひきこもりは問題化しているようです。
日本、韓国、イタリアは、個人より家族が優先される国ですね。そしてひきこもり100万人時代を迎えて、日本のおじさん達は世界一孤独なのです。
■ひきこもりになる人の特徴
ひきこもりになる人の特徴として次のような傾向があることが分かっています。
- 感情を表現できない
- まじめ
- 不安が強い
- 人の眼が気になる、他者評価を気にする
- 自己肯定感が低い
これらの特徴は、本人の性格というよりも原因があることが多いのです。その原因を解説します。
■ひきこもりの4つの原因と対策
私のひきこもりについての考え方と、ひきこもりにも造詣が深い精神科医の斉藤氏の考え方の似ているところと差について解説します。
◇ソレアの分類と対策
どうしてひきこもりが起こってしまったのか、当人の問題なのかその家庭の問題なのかをまず切り分けることが必要です。それにはジェノグラムが必要です。関連動画「スクールカウンセラー必携いじめ対応のアレ!【臨床心理士の知恵】」を参考にしてください。
家族の心理の力加減が見えてくると原因もみえてきます。家族の見立てがしっかりすれば、それに従って介入するだけです。下記のひきこもりの見立て4類型にしたがって見立てをします。
- 当人の精神疾患-(1)発達障害、統合失調症、うつ病など
- 家庭環境-(2)被虐体験、(3)親の心理発達
- 学校の様子-(4)いじめ体験
いま話題の8050問題、つまり80代の親とひきこもりの50代の子どもの問題は、上の3つの見立てすべてに関係しています。
それぞれの介入方法は、
- 当人の精神疾患-(1)発達障害、統合失調症、うつ病
当人の精神障害によってひきこもりになっているケースです。障害そのもので動けなくなるのですが、この障害によって次のような二次障害によってもひきこもりになります。
- 人間関係につまずく
発達障害、統合失調症、うつ病に対するカウンセリングをよく理解していることです。一番重要なのは、当人の環境をシンプルにすること。それによってストレスが最小限になります。体が動くようになります。
詳細な対応は、精神障害の程度や種類(ASD, ADHD, LD, MR)に応じて変化させます。このとき Vineland-II などを使って、社会適応度を十分に査定する必要があるでしょう。
- 家庭環境-(2)被虐体験
親からの虐待でひきこもりになっている被虐児への対応です。親を刺激しないようにして、できるだけ学校へ来ることを促します。勉強はいいので保健室や図書館登校を促します。そして先生や同級生がそこで遊びに来られる雰囲気を作ります。
つまり被虐者の安全基地を作るので、これで彼は学校へ来られるようになります。家という危険地帯から遠ざかることができるようになります。
詳細な対応は被虐者への【特別な】対応となります。愛着障害、虐待の研修を受けていないと対応できません。
被虐体験による子の【HSP】問題もあります。(過去記事を参照ください)
- 家庭環境-(3)親の心理発達
意外と、これが原因でひきこもりになっているケースが多いのではないでしょうか。(A) 親が子どもからの暴力から逃げているパターンです。子どもの暴力が正当だと思えるならば、親の心理発達の原因が多いです。正当と思えないときは子どもの発達障害があるかもしれません。
親が子の訴えを逃げずに聴くことができれば、子どものひきこもりはしだいに解消されるでしょう。
また子どもが思春期心性を卒業できていない場合はひきこもりになる場合があります。なぜ子どもがそこを通過できていないのかは、次のような問題があることが多いのです。
- 親の過干渉、過度な期待
- 親の無関心、無干渉
- 親が子どもの返事を待つことができず、先回りしてしまう
- 教育が勉強優先になっている
- 夫婦仲が悪い→家庭での会話が少ない
- 学校や職場にになじめない
- ネット依存、ゲーム依存になる
- 家庭環境による子の【HSP】問題(過去記事を参照ください)
(B) 親が逃げてはいないけれど、親自身も成育上のつまずきがあって、それで子どもとの親子関係がうまく作れないという場合があります。この場合は、親が積極的にカウンセリングをうけて変化すると、子どもも変化するでしょう。
このケースの親子関係の場合、子どもは次のような行動をとりつつ、ひきこもりになることがあります。
- 頑張りすぎて、何もできなくなる
- 受験で失敗して、何もできなくなる
- 就活を乗り切れず、何もできなくなる
- 学校や職場にになじめない
- ネット依存、ゲーム依存になる
- 家庭環境による子の【HSP】問題(過去記事を参照ください)
この3-Aと3-Bの状態は、よくみると結構心理的な配置が違います。それについては別記事で解説します。ざっというと
- 3-A:愛着不全→愛着はあるが十分でなかった場合
- 3-B:正常愛着→愛着は十分だったが、成育上のどこかでなんらかの原因でつまずいている状態
対応のあらすじは、次の斉藤氏の対応を参照してください。
- 学校の様子-(4)いじめ体験
これは結構ありますね。上の(1)~(3)は子どもか、家庭が問題でしたが、これは子どもが原因でも家庭が原因でもありません。
こちらの対応は、関連記事「いじめられている子に親や周囲ができる対応【将来の重症化を防ぐため】」をご覧ください。
対応のあらすじは、次の斉藤氏の対応およびソレアの記事を参照してください。
▼いじめられている子に親や周囲ができる対応【将来の重症化を防ぐため】
▼ スクールカウンセラー必携いじめ対応のアレ!【臨床心理士の知恵】
◇斎藤環氏の対策(*3)
斉藤氏は下記の対応を提案しています。これは、先のソレアの原因と対策の(3)と(4)に当たるものと思います。(1)と(2)は想定されていないようです。ここが、ソレアと斉藤氏との差になります。
- 家族は当事者にとって最初の支援者なので、まず家族が精神科医に相談したり、カウンセリングを受けたりする
- 外部の家族会などに参加することで接点を持つ
- 徐々に家族と社会との接点を増やしていく
- 家族はカウンセリングに通い続けながら、ひきこもり地域センターや精神保健福祉センターの窓口、民間の支援団体に相談し、親が本人との対応術を身に付ける。
- 結果、本人も少しずつ変化してくる
ここから本人の個人カウンセリング→グループやデイケアなどの集団適応支援などへ移行します。
斉藤氏の対応の肝心なところは次の2つです。
- 親が【積極的に社会とつながること】で、子どもの社会化が促進されます。そのためには親が孤立しないことです。親が孤立すると子も孤立してひきこもります。ひきこもりというのは、孤立するための最終手段だらかです。
- ひきこもりの解消は、本人が自分自身の状態を肯定的に受け入れられるようになること。【就労や就学は最終目標ではない】のです。社会の眼がそのように変化することで本人も楽になって、社会へ出ていけるようになります。
■ひきこもりを肯定しつつサポートする
ネット社会になってパソコンがあれば、ひきこもりながら月に3~5万でも稼げる仕事の幅は広がっています。投資とかプログラミングなどです。そういう仕事をしながら少しでも稼いでいく。こづかい程度を自分で稼ぐ。こういう成功体験を積み上げていくのです。バリバリに働かなくてもいい、バイトで十分。そこがゴールです。
つまりひきこもりを悪者にしないことです。【ひきこもりながら】生活できる環境を作ってあげることも親の役割です。そのためには親のライフプランを見直す。子どもがひきこもっていても、その状態で子どもが死ぬまで過ごしていけそうなライフプランを練り直すことも必要になってくるでしょう。
また今回のコロナ騒ぎで、外出自粛・家にいることが良いという雰囲気が定着しました。こういう社会変化はなかなか起きません。これは、ひきこもりの人に少なからず良い影響を与えたようです。
ただこれは社会の【同調圧力】が高まった結果で、こういう圧力の強さをひきこもりの人は敏感に察知しますので、諸刃の剣になりかねないリスクもあります。
今後のひきこもりの調査が待たれます。
ひきこもっている人は、その自分の状態に焦っています。
- 働きたいのに働けない、
- 自分を恥ずかしい、と思って
- 葛藤しています
この焦りを、周囲の人が理解していることです。
◇自分の物語をつくる
社会の同調圧力によって「スタンダードの物語」を作るのではなく、【自分の物語】を作ることが重要であると、斉藤氏のもとで精神医療を学んだイタリアのパントー医師はいいます。(*4)
自分の物語を作るのを阻む壁は2つあります。
- 同調圧力
- 自己責任
同調圧力については、日本の特有の文化にも話が及んできます。本音と建て前、そんたくの話です。それらを乗り越えて、ひきこもっている本人が自分の物語を話しだせるか。日本のスタンダードを越えていけるか。
そして自己責任。自分で勝手に責任とりなさい。私は知りません。というマッチョな思想です。欧米のスタンダードですね。こっちもある意味、スタンダードなんです。こういう文化なので、ひきこもりたい若者は、ひきこもりになれずホームレス化して犯罪世界に入っていくという闇の部分もあるのです。
この日本のスタンダードと欧米のスタンダードを、どう切り崩して越えていけるか。そのためにはカウンセリングはとても有効に作用するでしょう。
■まとめ
ひきこもりは全国で100万人時代に突入しました。特に中高年のひきこもりが増えていますし、日本特有の事象ではなくなってきています。
ひきこもりになる人の特徴として、
- 感情を表現できない
- まじめ
- 不安が強い
- 人の眼が気になる、他者評価を気にする
- 自己肯定感が低い
などがありますが、性格というよりも原因があるのです。
- 当人の精神疾患-(1)発達障害、統合失調症、うつ病など
- 家庭環境-(2)被虐体験、(3)親の心理発達
- 学校の様子-(4)いじめ体験
この4つです。それぞれに対しての詳しい介入方法は本文を参照ください。
ひきこもりに詳しい斎藤環氏は、
- 家族が社会と接点を増やしていくこと
- 就労や就学は最終目標ではない と提案しています。
現実的なプランとしては、
- ひきこもりつつ数万円程度を稼ぐ
- 親が死んだあとのライフプランを立てておく
- 同調圧力からのスタンダードな物語をどう自分の物語に変えていけるか
などに注目しました。
ひきこもりで一番のポイントは、【世の中のスタンダードを越えて自分の物語を作れるかどうか】です。私ごとですが、私にとって10代後半~20代前半の10年が、その時期でした。幸運を祈ります。
Referance:
*1)厚生労働省:ひきこもり施策について, https://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/02/02.html
*2)内閣府:内閣府の生活状況に関する調査, 2019
*3)1000万人時代に向かうひきこもりとその対策:斎藤環氏, 2019, https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c05008/
*4)Torus(トーラス):イタリア人医師が考える、日本に引きこもりが多い理由。 https://torus.abejainc.com/n/n04d1dcf12951