・わが子がいじめられているのではないか
・子どもの友だちがいじめにあっているようだ
・会社でパワハラ上司の言動がきつい
そんなときは一人で抱え込まないことです。この記事はいじめにどう対応したらいいのかを説明します。臨床心理士がお伝えするこの知恵は、のべ2万人の悩みを聴くなかで学んできたものです。
子どものいじめを想定して書いていますが、会社でのいじめについても使えますので、パワハラへの対応策としてもお読みください。
- 前半では「いじめの本質と、親と周囲がどう対応していくか」について、
- 後半では「いじめられている本人がどういう行動を取るべきか」について解説しています。
- 最後には子どもの頃のいじめが成人になってからどのような暗い影を落とすのかについて書きました。
いじめは早期に発見して対応を取るべきであることが理解していただけると思います。
■いじめの実態(2020年)
平成30年度の調査では、分かっているだけでも、54万件のいじめが報告されました。小学校で43万、中学で10万、高校で2万弱で、東日本大震災後の小学校のいじめの伸びが著しい(8倍)のです。
この小学校でのいじめの数の伸びを文科省は、「以前は悪ふざけの範囲内と考えられていたものでも積極的にいじめと認知し、早期に対応している結果」と前向きにとらえていますが、とてもヘンな言い訳ではないでしょうか。
実際、東日本大震災以降、被災地の外へ転校した生徒へのいじめは多発しました。しかし、それだけではないでしょう。2011年以降の世の中の移り変わりなどの詳しい調査と分析が待たれます。
■【最重要】いじめの本質
精神科医の中井久夫氏は、「いじめの政治学」(*1)というエッセイで、いじめは権力に関係しているから、必ず政治学があると言っています。
そしていじめの過程を「孤立化」「無力化」「透明化」の三段階に分けています。
- 最初はターゲットを、まず【孤立】させます。
- 次に、反撃は一切【無力】であることを教え、被害者を観念させます。もっともひどい暴力がふるわれるのはこの段階です。
- 最後の【透明化】で加害者は、いじめを周囲の眼から見えなくしていきます。この透明化によって被害者は、加害者との関係が永久に続くように思うようになり、大人の前で仲良くやっているようにふるまったりします。ここで自己の無価値化が完成します。
- そして家族の前ではいい子でありつづけようとして、彼の最後の誇りが失われそうになったとき【自殺】が実行されます。
この段階を見ていくと、2段階目の無力化が大人の最後の介入のチャンスです。
被害者は、最初の段階から、いじめられているというサインを周囲に発信しつづけています。そしてこの無力化の段階では、加害者もいじめの正念場として激しい暴力に出て、被害者に君臨しようとします。
加害者もここは【のるかそるか】の大博打に出るのです。ここで失敗すれば、今度は加害者がその威力を失うからです。逆に加害者が孤立化しかねないから必死で暴力を繰り出します。
大人は被害者のサインを発見したら、
- いじめは基本的に悪であり、
- 立派な犯罪であり、
- 道徳的には被害者の立場に立つことを、
本人や周囲に明言する必要があります。
この記事の最後で解説しますが、子どもの頃のいじめられ体験というのは中年期以降まで深い影をおとす外傷なのです。
■いじめをキャッチする
◇親が子の異変に気づくこと
子の異変は、いじめの3段階にわたって発せられますが、とくに初期には発信の頻度が高く、その時期にキャッチして対応すれば、いじめ加害者を無力化できるチャンスです。子どもの、次の異変に注意してください。
- 感情的になりやすい。すぐに泣いたり怒ったりする
- ぼんやりしている
- 寝つきが悪くなり朝も起きにくくなる
- 服が汚れている
- 持ち物がなくなる
- 小さな傷がある
- 所持品やかばんに落書きされている
- 食欲がなくなる
- 笑顔がなくなる
- 髪の毛を自分で抜く
- 爪をかむ
- 口数が減る
◇子どもはいじめを親へ言えない
いじめの初期段階で、「孤立化」させられていく子どもは、いじめられている信号を出しながら、親にそのことを言えない場所へ自分を追い込んでいきます。その心理は、
- 親へ心配かけたくない
- いじめを認めたくない
- 親に言うな、先生に言うなと、加害者にストップをかけられているので、言うといじめがひどくなると心配する
■いじめストップ作戦
いじめの信号をキャッチしたら父性を発動することです。親が出ていく。父性は主に父親ですが、シングルマザーの場合は、母親でも、また別の信頼のおける男性でもかまいません。
先に、中井氏のエッセイでも紹介しましたが、親は、いじめは基本的に悪であり、立派な犯罪であり、道徳的には被害者の立場に立つことを明言し続けることです。
◇親がやること
下記のリストに従って順番に、子どもをバックアップしていきます。
- 父親が前面に出ていく。未成年のうちは親が子を養育する責任がある。ここで重要なのは、父親が先走りしないことです。子どもと同じ歩調で、子どもの様子を見ながら、バックアップしながら歩く感じです。子どものことが心配なのは分かりますが、子どもを置いて勝手に突っ走るのは最悪です。
- 同時に母親は、文科省管轄のいじめ相談窓口などに相談に行くといいでしょう。
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう)→この窓口は、子ども本人、保護者が利用できます。 - 親がいじめの証拠集めをしておく(子の身心の状態の記録、診断書、子の友人の発言など)。そして文書として作成しておく。
- 加害者の親に直接話すことも視野に入れておきます。(加害者本人ではない)→恐喝の場合、10倍のお金をつつんで、返さなくていいから、仲良くしてやってくれと親に持っていく作戦もあります。
- 学校へ相談する。
厳しいことを書きますが、学校と加害者は結託しやすいので、学校はいじめ相談には親身になってくれないかもしれません。それでも担任とは仲良くしておくことです。加害者、担任、学年主任、校長、SCなど複数で話す機会を設けます。 - 教育委員会に通報(それでも学校が動かない場合)
- 警察へ相談(教育委員会が動かない場合)
- 弁護士へ相談(警察と並行して)
◇家庭の在り方(普段から)
いじめストップ作戦を実行しながら、被害者の親は自分たちの家庭を見つめ直し再構築していくことです。次の点がポイントですが、これは、普段から家庭でやっておくべきことです。
- 子どもの安全基地となっているか
- 子の意思を尊重し、先走らない
- 子どもの味方であり続ける
◇こどもに力をつけさせる(普段から)
こちらも普段からやっておくべきことです。
- 誰かに助けを求める力をつける
親が見本を見せることです。困ったことがあったらまず周囲に相談するという行動を子どもに見せていく。それによって、子どもは「あ、相談していいんだ」と自然に行動できるようになります。これがいじめのとき、孤立化を未然に防ぎます。 - その場で拒絶する力をつける
いじめの場面で拒絶することは、疲弊も激しく、長くは維持できません。ですからいじめの初期にこの力が発動できるといいですね。そのためには、子どもは日常において感情を押し殺さなくていいということを学ばせていきます。 - いじめは4層構造と言われています。被害者←加害者←観衆←傍観者 の4つです。
この傍観者の中に【いじめの仲裁者】となる力のある子がいます。学校の先生は、そういう子を発見してその子の能力が発揮できるようにサポートしていきます。
サポートの仕方はシンプルです。その子の仲裁者となれる言動を支持していくだけです。
■スクールカウンセラー(SC)はどの場面で出てくるか
学校側が、どのようにいじめに対応して収束へ向かわせるかですが、各都道府県の教育委員会や文部科学省がマニュアル(*2)を作成しているのでそれを見ると大体の流れは分かります。
◇いじめに関連する人々をアセスメントする(SC)
学校側がいじめに対応する前提として、SCが本人および周辺をアセスメントして情報をまとめておくことが重要です。つまり、
- 被害者本人(児童)とその家庭
- 加害者本人(児童)とその家庭
この2つをアセスメントする必要あります。その結果を被害者、加害者の家系図としてまとめていきます。(このまとめかたについては別記事で解説します。)その上でいじめ防止プランの作成に協力します。
その後、数か月後を目安にプランは有効に働いているかチェックして、さらに改善できるプランへの変更を提案します。
残念なことに、先生が加害者に入ってくるケースもあります。ここは大人の社会でのパワハラと同じ構図です。
いじめについてのアセスメントツールもあります。Q-U(学級経営診断尺度)やアセス(学校適応感尺度ASSESS)などの心理テストですが、それよりも、SCが面接や観察を通して生身の情報から総合的にアセスメントすべきです。
ここからの後半部では
- 「いじめられている本人がどういう行動を取るべきか」について、
- 「子どもの頃のいじめが成人になってからどのような暗い影を落とすのか」について解説します。
■被害者のとるべき対応
本人にとっては一大事ですが、暴力にまで至っていない、初期段階のいじめでは下記の事例が参考になります。
【小学生の神対応】
上履き隠しの いじめが流行っていて、ようやく私の番がまわってきて隠された。そのとき「なくなった!」と騒がず「あー、やっと流行に乗れたわ」と友人にいった。それっきり隠されなくなった。
ポイントは、
- 加害者が「こいつをいじめても面白くないな」と思う反応をすることです。
- 影の実力者と仲良くなる
- 命令されないように、離れている、などの対応も○。
【大人のいじめ 】パワハラ事例です。
無視、しっと、やっかみ等、子どもと同じようなことをする大人がいます。パワハラをする相手は、、自己肯定感が低い場合が大半です。だから注意したくらいでは直りません。その場合は、
- そこから逃げる
- 最初からそのコミュニティとはあっさりと付き合う など
でも上司だとなかなか距離が取りづらいですね。そんなときはいじめの初期段階の鉄則を思い出してください。【孤立化しない】ということ。積極的に周囲に働きかけて、あなたの味方を作っていってください。
それでもうまくいかないときがあります。そのときは躊躇せず【転職】、子どもなら【ひきこもり】、を選択しましょう。
【逃げないといけないとき】
いじめの最後の段階である透明化に至っては逃げる力も奪われています。2段階目の【無力化】が行われているときが最後のチャンスです。この段階ではいじめ行為がひどくなる時期です。その時期に逃げることです。具体的には、
- 休む(最低1か月~2か月)、転校
- 転職
休むのは数日ではありません。最低でも一か月。この期間によって加害者に反省を促せる可能性もあります。大変なことをしてしまった、と。
また恐喝事案のようなとき、親が加害者の親にアプローチするようなときも、この長期休みの期間に実行するといいでしょう。子どもが学校にいると恐喝が激しくなり危険です。
■いじめが一因にもなる大人の病気
◇妄想
妄想、させられ体験などは統合失調症の一つの病理ですが、その独話の内容をよく聴いていると、子どもの頃のいじめの体験が下敷きになっていることがあります。
そうなるとこれは、妄想の形を取ったPTSDということになります。治療は幸せな体験の積み上げをめざします。
いじめが中年期まで影を落とす件は少なくありません。いじめによって友人関係が破壊されるだけでなく親との関係にまで及ぶことがあります。またそれが(統合失調症のような)妄想に発展することもあるわけです。
そこまで波及すると本人の負担も相当なものとなり、治療もたいへんになります。時間もかかります。学校のときにいじめをストップすることが必要です。そのために先生やスクールカウンセラーの果たす役割は大きいです。
◇ひきこもり
- 仕事や学校に行かず、
- かつ、家族以外の人との交流をほとんどせずに、
- 6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態 を「ひきこもり」と呼びます。
「ひきこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではなく、様々な要因が背景になって生じますが、いじめもその一因です。様々な要因とは、
- 本人に発達の問題がある
- 親の成熟度の問題
- 愛着の問題。つまり本人が虐待されている(社会的ネグレクトも含む)
ここにいじめがからみあってきて、家から出られなくなります。
ひきこもりについては別の記事で解説します。
▼100万人ひきこもり時代、いい?いけない?【4つの原因と対策】
◇解離
【USPT 内在性解離】という概念があります。つらい出来事を体験して潜在意識の中に別人格を作り出してしまった状態と説明されますが、解離についての一般的な捉え方とは少し違うようです。精神科医の小栗康平氏が提唱。しかし特別な解離で説明しなくても、普通の解離の概念で説明できます。
【USPTっぽくなる原理】
ひとりの自分の中には、いい子の自分Aと、本当の怒りの塊の自分Bがいます。これは人格が分裂しているわけではなく、自分の中のAにBの要素が混じってダークになっているのです。しかしAにBが混じってくることを許さなかったとき、Bを別人格のようにしてしまうときがあります。その原因はいじめです。
小学生のとき同級生(や先生)からいじめに合うと、いい子の自分を凍結してしまいます。彼らからの攻撃をかわすために、今の自分を保存する必要があるから凍結する、変化させないようにする。これは、自分で自分を「無力化」しているのと同じです。変化する力を自分で奪っているからです。それによって、いい子Aがダークになるのを許しません。だから悪い自分Bは、別の自分として存在しないといけなくなる。ここに解離が生じるのです。
◇愛着障害
虐待ではないけれど【親のいじめ】というのもあります。これは情緒交流の欠如の【社会的ネグレクト】といえるかどうか微妙なところはあります。でも、この親のいじめも子どもに暗い影を落とすのです。元来、情緒交流があればいじめなど発生しないわけなので、広義の社会的ネグレクトといっても差し支えないでしょう。
◇第4の発達障害(C-PTSD)
ASD, ADHD, LDの次に、いじめは4番目の発達障害になりえます。治らない器質的な発達障害ではなく、発達の遅延です。(どういう発達遅延かというと、心理発達が途中で止まるのです。虐待(愛着障害)との差は、精神発達がストップする場所が異なります。
- 外見は大人だが、いじめで、学童期でストップ
→親が正常発達をとげていても、いじめによって子どもの発達が学童期でストップする可能性を示唆しています。 - 外見は大人だが、虐待で、幼児期でストップ
いじめ、虐待とも、C-PTSD(複雑性PTSD)として扱えます。
■まとめ
中井氏のいじめのエッセイはいじめの本質を突いたものです。
- 孤立化
- 無力化
- 透明化
の三段階あって、無力化のうちに食い止めることが重要です。
次にいじめのキャッチといじめストップ大作戦で親がやることをリストアップしました。
- 父性を発揮する
- いじめ相談窓口などの利用
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう) - いじめの証拠集め
- 加害者の親に直接話す
- 学校へ相談する。
- 教育委員会に通報
- 警察へ相談
- 弁護士へ相談
スクールカウンセラーは、いじめに関連する人々を家系図をもとに総合的にアセスメントします。そして学校側はいじめ対応プランにそれを生かしていきます。
後半では、被害者のとるべき対応として、
- 加害者が「こいつをいじめても面白くないな」と思う反応をする
- 影の実力者と仲良くなる
- 命令されないように、離れている
- 最初からそのコミュニティとはあっさりと付き合う
- そこから逃げる
- 休む(最低1か月~2か月)、転校
- 転職
などを紹介しました。
最後に、いじめが一因となってしまう可能性のある成人の病理について解説しました。
- 妄想
- ひきこもり
- 解離
- 愛着障害
- 第4番目の発達障害(C-PTSD)
いじめというのは、被害者の人生の広範囲にわたって暗い影を落とすものです。親や周囲の人々のサポートは、早期に集中的に行うべきものです。
Reference
*1)中井久夫:アリアドネからの糸, みすず書房, 1997
*2)いじめ対応の手引き, 青森県教育委員会, 2019
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