スクールカウンセラー必携いじめ対応の秘術!【臨床心理士の知恵】

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・スクールカウンセラー(SC)として生徒の見立てに自信がない
・いじめに対して何をすればいいのかは分かるが、生徒に向かいあうと自信がなくなる

こんな悩みをお持ちの心理職のあなた。これらを解決するための方法を解説します。臨床心理士がお伝えするこの知恵は、のべ2万人の悩みを聴くなかで学んできたものです。

前半では「いじめへの一般的な取り組み」
後半では「スクールカウンセラー必携のスキル」を解説します。

■いじめへの一般的な取り組み

◇文科省のいじめへの対応

文科省のサイトには、下記のように(*1)宣言されています。

  • 学校ではいじめは、「指導」という観点から、加害者に反省させ、その後いわゆる「握手して仲直り」型の対応を行なうことが多い。しかしながらカウンセラーとしては、それでは十分ではなく、なによりもいじめ被害者の心的外傷によく対応することが重要である。
  • 被害者が、加害者と「握手して仲直り」することでより大きな心的外傷を被ることもありうるので、そのような場合は生徒指導担当者とよく協議し、「仲直り」を延期することも考えなければならない。
  • いじめ加害者のカウンセリングも、必要に応じて行なわなければならないが、いじめという事態に関しては、最優先されるのは被害者の心的外傷への対応であるということを忘れてはならない。

このへんは常識でしょう。方針はこれで良いのですが、具体的にどのようにこれらを実行していくのでしょうか。スクールカウンセラーの実際の対応をみていきましょう。

◇SCの対応

Two carrots
子に寄り添い、話を聴き、支持する

被害者への対応としては、ほぼどのサイトも同じスタンスです。

・本人をいたわり、勇気をほめ、安心感を与えること。傷つき、小さく弱くなってしまった心を奮い立たせ、来てくれた勇気をほめて、味方になることを宣言する。

これも常識ですね。対応はいいのですが、次の方針をどうするのかが見えてきません。

石川氏の論文(*2)には、もう少し具体的な方針が書かれていました。ただ、これも片手落ちなのは、何をするのかは分かるのですが、それをする根拠が見えてきません。例えば、なぜアサーションなのか?というところです。【校内巡回・観察】は特に注目してください。次に紹介する海外の学校心理職の取り組みに関係してきます。

□SCが直接関与しているいじめ防止活動の内容ベスト5

・アサーション、アンガーマネジメントなどのSST教育、構成的グループエンカウンターの実施、心の授業
・人権教育(いじめ予防)への協力、ポスター、相談箱設置
・教職員間の情報共有、【校内巡回・観察】
・いじめアンケートへの協力、気がかりな児童生徒への面談
・教育相談部会・校内委員会への出席・助言

◇海外の学校心理職の取り組み

A candle on snow
よく見るには、光源も必要。

下山研究室の院生が書いた論文(*3)では、海外の取り組みとしてCrothers & Levinson(2004)の論文を参照していました。

それによると、いじめのアセスメントの方法について、「観察(非構造化観察と構造化観察)」「面接」「ソシオメトリック法」「質問紙法」「生徒全体の調査」「教師による評価」「自己報告」と分類している。

ここで【観察】に注意されるといいでしょう。これは石川氏の論文にあった【校内巡回・観察】と同じことです。このスキルは重要です。このスキルが未熟なために、SCへの批判が繰り返されているのかもしれません。SCの多くは臨床心理士です。それらをまとめている日本臨床心理士会の今後の分析と研修が待たれます。

◇SCへの批判

1995年にスタートした「スクールカウンセラー事業」の効果への疑問がときどき取沙汰されます。

財務省が行った「中学校へのスクールカウンセラーの配置率と問題行動件数の減少率の相関関係」(*4)では、カウンセラーを配置するほど問題行動が多くなってしまうという結果がでています。

School counselor icon
SCは正しい見立てをしているか?

理由は分析されていません。2004年以前というのは臨床心理士が大学院を出ていなくても実務経験だけで臨床心理士になれた時代です。大学院を出る/出ないというのがその実力に影響しているとは思いませんが、そういうことも何か遠因としてあるのでしょうか。よく分かりません。

もう一つ、2011年10月11日、大津市中2いじめ自殺事件がありました。そのときのSCの対応が大きな問題になりました。学校が自殺の主因についていじめではないという判断を下す際に、SCの見立てが影響を与えたというのです。実施SCがどのような見立てを持っていたのかは不明です。しかし、この事件をみると【SCの見立て】の重要性があぶりだされます。

つまり、スクールカウンセラーに求められていることは、

  • 正しい観察
  • 正しい見立て

この2つです。

後半では、スクールカウンセラーとして生き残るために必要な、「スクールカウンセラー必携のスキル」を具体的に詳細解説します。

■威力を発揮するジェノグラム

どうしてジェノグラムなのか?それは個人を見立てるためのものですが、いじめについては、被害者も加害者も【家族】を見立てることが重要になってくるからです。

ジェノグラムとは家系図です。カウンセリングではジェノグラムがないと始まりません。動画ではソレアのジェノグラムをお見せしています。参考になさってください。ソレアのジェノグラム作成の手順は3つあります。

Genogram
ジェノグラムは必携

・通常のジェノグラムと同じで、関係性と年齢は記述します。
・それ以外に余白に、重要な情報をびっしりと書きこんでいきます。具体的には次の2つに注目していきます。

  • 客観的事実
  • 各個人の主観的な感情や思い

客観的事実と主観的な思いの違いを、心理的に検討して、最終的に各個人の【精神発達の状態の見立て】を記入する

このジェノグラムを被害者と加害者の2セット作っておくと、見立てにしたがって方針が立てられます。つまりケースワークのプランが立てられます。

・心理職は、家族を含めた各個人々を適切に観察して、見立てるスキルが最重要です。

・これはある意味、心理職にしかできません。学校の先生にはハードルが高いです。学校の先生は面接のプロではないから。そしてこれは、心理面接を数こなしていかないと身につかないスキルです。

・本で学ぶことはできるかもしれませんが、そこが最終地点ではなくスタート地点です。

・しかし、この心理職が作成したジェノグラムは、他の人がみてもよく分からないと思います。ですから、このジェノグラムをそのまま伝えるのではなく、心理職でない人にもよく分かるように伝えるスキルも必要になってきます。

■成長するジェノグラム

スクールカウンセラーはジェノグラムを見ながら、被害者や加害者やその家族との面接を行います。複数回の面接によって、そのジェノグラムには「核心的な」事柄も追加されて、ジェノグラム自体成長していくでしょう。

このジェノグラムの成長によって、援助がより確かなものになっていきます。より的確なアドバイスが、自信をもってできるようになるでしょう。同時に見立ても必要なら修正を加えていきます。

【最重要】適切なジェノグラムによって面接が安定する、同時に対応策(ケースワーク)も自ずと見えてくる、見立ても決定する。

Growing sprouts in pots
ジェノグラムは成長する

■まとめ

スクールカウンセラーがいじめ事例に対応するときは、まず2つのスキルが必要です。

  • 見立てまで記入したジェノグラムを書くスキル
    ジェノグラムは被害者と加害者の2セット必要(加害者が複数いたらその分のジェノグラムが必要)
  • それを心理職以外の人にもわかるように伝えるスキル

このスキルを身につけたら学校現場で心理職として迷わずにやっていけるでしょう。

Reference

*1)文科省:スクールカウンセラーの対象2-症状、問題行動別の対応の実際, 2008, https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/066/shiryo/attach/1369917.htm
*2) 石川悦子:学校のいじめ防止活動におけるスクールカウンセラーの役割, こども教育宝仙大学 紀要, 2019
*3)下山晴彦:いじめ問題への取り組みにおけるスクールカウンセラーの役割, 東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース下山研究室, 2015
*4)財務省:総括調査票 スクールカウンセラー活用事業, 2004

スクールカウンセラーとしてのスキルを身につけたいときは、ソレア心理カウンセリングセンターへ

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