【ステイホーム】は感覚をアンバランスにして、精神の不調をもたらす

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先日、こんなツイートをしました。

ステイホームでは刺激が低下します。これにより五感の感度が低下し、感覚がアンバランスになる。例えば、味覚が低下し、舌ざわり感が増大する。これはストレスを増やします。 解決策は、外に出ること。夫のテレワークというストレスと、ステイホームという刺激低下に殺られている主婦がたくさんいます。

2020年の流行語大賞は【ステイホーム】ではないかと思いますが、それに異論のある人はいないでしょう。それくらい何度も何度も目に耳に入った標語ですね。

今回は、このステイホームの弱点について、心理学的に解説します。キーワードは【刺激】ということ。

刺激は、自己肯定感を高めるためにも必要なものでした。つまり良い方向に働く善玉ストレスということですね。

■感覚遮断による幻覚の出現

人は5つの感覚器を持っています。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚ですね。この感覚器に入る情報が極めて制限されると、人の脳は暴走しだし幻覚が出現します。この幻覚は、統合失調症のような脳機能(つまりDNA)の障害とは違って、誰にでも起こるものなのです。

Brain coral and diver
閉鎖空間での出来事

この感覚遮断実験は、【知覚】の不思議として、一般心理学の授業で大学3年生が必ず習うものです。実際は存在しないのに、存在しているように見えてくる状態を作り出すのに、覚醒剤などは必要ないのです。ただ情報を遮断すればいいだけです。

◇感覚遮断実験

ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL)の心理学者Oliver J Mason氏の実験では、視覚と聴覚を完全に遮断した環境に「健康な被験者」19人を閉じ込めると15分後には、幻覚、妄想、抑うつ感が多くの人に見られたというのです(*1)。

脳というのは、絶えず何らかの感覚情報が必要であるという実証実験でした。

感覚を遮断すると人間はどういう状態になるのか、という研究は、1950年代から頻繁に行われてきました。ピークは1969年 “Sensory Deprivation-Fifteen Years of Research”です。

この研究の発端は、朝鮮戦争(1950~1953) でした。中国軍の捕虜となったアメリカ兵が洗脳される過程の研究です。それによると、1週間独房に監禁され食事だけが運ばれる環境下に置かれた兵士たちにはさまざまな幻覚が出現したのです。その後、独房から出されて洗脳(共産主義の思想教育)が実施されました。

この洗脳(マインドコントロール)方法は、カルト宗教団体に利用されています。多くのカルト集団が閉塞空間を作っているのは洗脳しやすいためといえます。

ねずみ講で商品を販売する場合は、ターゲットになった人を熱狂空間に封じこめて洗脳します。こちらは、ある一方向の情報強度の高い環境に閉じ込めることで、他のさまざまな情報を締め出して【感覚のアンバランス】を作為的に作り出しているのです。

いずれにせよ、【感覚のアンバランス】は精神の不調をもたらします。ステイホームによって感覚のアンバランスを味わっている具体例を紹介しておきます。

◇味覚より触覚優位になった

Aさんは40代の主婦です。ステイホームによって外出できない日が何か月も続いています。ときどき外食をしていましたが、今はそれもできません。家にはテレワークの夫もいます。

するとAさんに変調が現れます。味は分かるのですが、その味覚を「乗り越えて」、食べている歯ざわりなどの食感つまり触覚が優位になってしまったのです。食感も大事(さぬきうどんなど)ですが、まずは私たちは、食べ物については味覚優位です。その圧倒的に優位な感覚に変化が生じたのです。まさにステイホームの刺激量低下がもたらした、【感覚のアンバランス】を象徴した体験といえるでしょう。

Aさんは、その後、自粛を自分で解除して積極的に外へ出るようになって、味覚優位な感覚に戻りました。

◇変なことを言うようになった小学生

感覚の刺激量低下を、最も敏感に体験するのは子どもです。子どもは好奇心旺盛で、刺激のあふれた世界で成長していくものですから、それが減少するのは彼らにとっては一大事です。

小学校低学年のBさんは、2020年3月、学校が休校になってすぐ変調をきたします。自分では言いたくないのに、汚いことばで母親をののしってしまうのです。

Bさんは自分がとても怖くなったといいます。学校という現場は、刺激に満ちた冒険できる場所です。そこがステイホームによってBさんの日常から奪われて、退屈な情報低下の世界に放り込まれて、不安・混乱を常時体験することになったのです。

小学校高学年や中学生くらいになってくると「サボれる、嬉しい!」という大人思考が発達してくるので、ダメージは少ないですが、低学年にはキツイことでした。関連記事を貼っておきます。

急に活動量が下がると、そんなように精神的にアンバランスな状態になってしまうのです。活動量の低下=刺激減少=精神的アンバランス という方程式ですね。

【コロナと東日本大震災】非常事態がもたらす子どもへのダメージと対応

◇アイソレーションタンクというリラクゼーション装置

ここでは、感覚遮断のメリットを解説します。感覚の制限は、情報を制限することによるリラックス効果を目的として用いられることがあります。

インターネットを中心に回っている現代は、情報過多といえる世界です。情報過多も疲労のもとになります。

感覚を制限することでリラックス効果を得るために開発された装置があります。アイソレーション・タンク(Isolation tank)です。光や音を遮断できるカプセルの中に、人肌程度の塩水 (エプソム塩水溶液) が入っています。ドアを閉めてそこに浮かぶことで、皮膚の感覚や重力の感覚が制限されます。情報の制限によるリラックス効果を狙っています。

実際に、お昼休みにこれを使っている精神科医を知っていますが、効果のほどは…よく分かりません。

■刺激とは?

別の記事で、刺激量が少なくなると、つまり同じ毎日を送っていると自己肯定感がダウンするという解説をしました。

ステイホームで、同じ食事をしたり、同じ服を着たりはNGです。外に出て、散歩をする、昨日と同じ生活をしないことを心がけましょう。早起きをして、外へ出て、散歩をする。帰ったら部屋を3分でいいから掃除してみる。こんな生活を送ると、感覚のバランスを取り戻すことができます。精神の不調は、感覚のアンバランスからばかり起こるわけではありませんが、少なくともその一つの原因を取り除くことはできます。

3分間クリーニングの習慣をつければ、知らずに身の回りがスッキリしていくという刺激(効果)もあります。年末の寒い時期の大掃除もやらなくて済むでしょう。関連記事を貼っておきます。

【自己肯定感】を育てる最強の習慣はコレ!~自分編【保存版】

■解決策は刺激のある世界へ戻ること

アンバランスになった精神の不調を回復させるには、以前の日常を取り戻すことです。社会の中で生きていることを実感するには、外へ出ることが一番早くて、安全で、確実な方法でしょう。

そのためには【ステイホーム】から卒業することです。

Little girl on the road
いつか、外へ。

◇余談:私たちは自粛警察から逃れることができるか?

コロナの悪影響は、ウイルスのパンデミックだけではありません。「自粛」を強要する風潮というものも生み出してしまいました。自粛していない人に対して営業妨害などをする自粛警察も登場しました。

テレビで政治家が先頭切って自粛スローガンを叫んでいるので、国民もあれが正しい姿と勘違いしてしまうのです。自粛を呼びかける行動の背景は「正義感」ですが、それが行き過ぎると「いじめ」になります。

正義を後ろ盾にしているため、自分の行動は正当化され、脳内の快楽物質であるドーパミンは出続けます。東日本大震災で「絆」のスローガンで日本がまとまった、あの感じが自粛警察にも作られてしまったのです。ですから、この【正義のいじめ】は加速する一方で、止められないようにもみえます。

この行き過ぎた【正義のいじめ】は現実の社会の未成熟性を象徴しているのですが、その最たるものがネット社会です。自粛警察はネット社会の幼稚さを象徴したものです。これは誹謗中傷も同様です。つまりネット社会はいい面もあるが、ひとたび感情が暴走すると手をつけられなくなる、ということが今回のコロナでよく分かりました。

この【正義のいじめ】に対抗する方法が何かあるのでしょうか。この問いについては【何もない】としかいいようがありません。自粛を強要してくるのは、自分ではなく「他人」です。他人は変えられないという原則があります。だから手のうちようがない。

しかしこの「他人」というところに、解決の糸口が見えます。つまり他人を変えられないなら自分を変えるしかありませんよね。ここで社会の全員の目が、他人ではなく、自分の取る行動を見るようになれば、解決の糸口が見えます。「自分の行動が集団による同調圧力になっていないか」そのように自問するからです。マインドフルな感じですね。

関連記事を貼っておきます。

【マインドフルネス瞑想】おすすめのやり方と考え方【保存版】

  • 流行に乗るのではなく、自分の行動を内省してみる
  • 行動する前に、ちょっと立ち止まって考えてみる

ネット社会はバズる(広くウケる)のが正義という風潮があります。その風潮をちょっと考えてみる。何万回見られたから正義だという、数が正義だ、という感じについて、ちょっと考えてみること。皆がそう考えてくれれば、ネット社会も少しは成熟していくでしょう。自粛警察は、そのような社会の暗闇が垣間見させてくれる、またとない出来事でした。

■まとめ

刺激の少ない世界は、感覚をアンバランスにして、それが精神の不調をきたすということを解説しました。

感覚遮断実験では幻覚が出現することが知られています。これはマインドコントロールにも用いられる方法です。

ステイホームによって精神の不調を感じる人は、この感覚情報の低下によることもあるのではないでしょうか。大人と子ども、二人の具体例を話しました。

刺激の重要性について。刺激が少ないと自己肯定感がダウンするのです。自己肯定感低下というのは万病のもとになりますので、気をつけるポイントでしょう。適度な刺激は保つように。

解決策は、ステイホームから卒業して、刺激のある世界へ戻ることでした。そのとき自粛警察のことをどう考えるのか。それは社会全体が、自分の行動を一歩引いて客観視してみることでした。

Star trail
そして、世界は回る。

Reference

(*1)Oliver J Mason:The Psychotomimetic Effects of Short-Term Sensory Deprivation, The Journal of Nervous and Mental Disease, 2009 (*2)Wikipedia: 感覚遮断

ステイホームで不調なときは、ソレア心理カウンセリングセンターへ

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