懐かしい歌、たまに聴くとシアワセになれる歌(回復するということ)|音楽療法、童謡メンタルセラピー

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みなさんのお気に入りの音楽は何でしょうか。お気に入りの歌を聴くとシアワセな気分になったりしますね。お気に入りは、たまに聴いても、毎日延々と聴いてもいいものですね。

ここでお話するのは、そういう歌とはちょっと違って、何十年ぶりかに聞いて懐かしい気分にさせてくれる歌のことです。

童謡メンタルセラピーについて

山西敏博先生による音楽療法で、童謡メンタルセラピーというものがあります。これは童謡に特化した音楽セラピーですが、今回の話は、もっと広い意味で音楽セラピーというものを捉えています。私の試論としてお読みください。

懐かしく思い出す歌

私がほぼ毎日聴いているのは、キース・ジャレット、ジャネット・サイデル、ザ・ブーム、一青窈など、好みのジャズやJ-POPなどです。キース・ジャレットは10年近く毎日聴きつづけており完全に嗜癖ですね。

そういう音楽とは違って、こないだ偶然耳に入ってきたのが、アン・マレーの「スノーバード」という曲です。この曲は私が中学生だった頃のヒットソングなんですが(年がバレますが)、この曲を聴いたとき、その当時にグーッと気持ちが戻されるわけではなく、そんな思い出とは違うところで懐かしさを感じていました。なんか、爽やかなんですね。そして暖かい。

これと似たような音楽はないかと思い巡らしたら、もう1曲見つかりました。アメリカのホームクラシックのジャンルに入る、ルロイ・アンダーソンの「ブルータンゴ」という曲です。

このような、思い出とがっちりとつながっていない音楽っていったい何なんだろう、と考えていたのですが、ここのところ春になってようやく頭と感覚が冬眠から醒め、ようやく自分の中で話せるようにまとまりました。と言っても、まだ霞の中のような状態ではあるので、うまく伝わればいいのですが。

懐かしさと普遍的なもの(集合的無意識に近いもの)

スノーバードのような音楽を聴くと、私の中では何かが動き出します。それは、当時の思い出が圧倒的に湧き出してくるというのとはちょっと違います。何も思い出は湧いて来ないといったほうがいいでしょう。例えば、スノーバードのちょっと後、1973年のヒット曲にジョンデンバーの「Sunshine on my shoulders」という歌があります。私は、この名曲を聞くたびに当時の思い出がよみがえりセンチメンタルになってしまいます。けれどスノーバードはそんなことはありません。

これは、スノーバードは思い出と結びついているわけでなく、もっと自分の中の、個人的なものでない、より普遍的なものに結びついているのではないか、という考えに至りました。

ユングは人類に共通する普遍的な無意識を集合的無意識と呼んでいますが、それに結びついて行くような、そのちょっと手前の個人的な部分を残した「甘酸っぱい無意識」あたりを刺激しているような気がします。
甘酸っぱい無意識というのも私の個人的な定義です。これについてはまた話題を改めてお話します。

あなたの中の原風景

みなさんは、自分で記憶している一番古い記憶って何でしょうか。そのような記憶を原風景といいますが、スノーバードは、その記憶も刺激しているかもしれないと思います。

話はそれますが、原風景というのは、とても大切なものです。あまり人にぺらぺらしゃべらないほうがいいですよ。自分の中にひっそりとしまっておいてください。それはカウンセリングの場においてもそうです。しゃべらないほうがいいな、と思ったら、それはしゃべらないほうがいいのです。私を含めてカウンセラーはたいてい原風景には興味がすごくあると思いますが、あなたがカウンセリングを受けていたとして、もしそのような場面に出くわしたら、カウンセラーの言いなりにならずにちょっと考えたほうがいいですよ。大切なものは、大切なものとして、自分だけの心の片隅にとっておいたほうがいいのです。

話を元に戻すと、スノーバードとかブルータンゴの曲の中には、そのような原風景の懐かしい香りがちょっとするのです。これは、言い換えれば、「思い出と結びついているわけでない、しかし、とても懐かしい」そんな感じです。こういう音楽に日常生活の中で不意打ちされると、一気に心が満たされます。良い思い出によって感じる懐かしさではない、「なぜだかわからないけど懐かしい」そういう気分になり、心がふわふわと満ちてきます。とてもシアワセな気分になります。

「ふわふわな感覚」があなたを癒す

私は、この「ふわふわ感覚」は症状の治癒過程において1つの重要なポイントになると思っています。さて、ここから心理の話になってくるわけですが、症状が治癒するというのは、どういうことかと言うと、症状→メッセージ→創造性、という3つの段階を経て治っていくことを確認しておきたいと思います。

症状とメッセージ

カウンセリングの場においては、まずクライエントさんの悩みが症状とともに話されます。回が進むにつれて、その症状を納得する段階、腑に落ちるともいいますが、その症状を何かのメッセージとして受け取れる段階になります。ここでは、そのメッセージを受け取りながら、そのメッセージを自分の心の中に根付かせていきます。

このとき、メッセージというものを大切な人に例えてもいいかもしれません。困ったことがあれば必ずやってきて助けてくれる。そういう保護者を期待する依存的な想いが心の中に根付くことはとても大切です。心の中に自分を助けてくれる保護者が育っていなければ外へ出ていけません。自立できません。依存関係から始まる自立こそ、真の自立であり、依存を否定した自立は単なる世捨て人にすぎません。

そして、創造性へ

このようにメッセ―ジを内的に自分のものにできると、次の段階である、メッセージを日常生活の場に活かしていく段階、つまり生活の中にそれを創造的に応用できるようになります。創造的とは、その人のもっているリソースが活性化するようなイメージでしょうか。そのような段階になると、その創造性はさまざまな場所へ波及し、意欲的に人生を送ることができるようになります。これが治癒です。

懐かしい音楽が効く場所は?

このように、症状は3つの段階を経て治癒にいたるわけですが、それでは、「なぜだかわからないけど懐かしい」気分にさせてくれるこの音楽、私にとっては「スノーバード」は、この3つの段階のどこに働いているかな、と考えました。内省してみると、それは自分の依存的な保護の部分と創造性の部分、両方に働いているように思えます。つまり症状治癒の経過でみると、メッセージから創造性へ移行していく時期に働いているような気がします。

思い出に結びつかない懐かしさ、このなんとも形容しがたい、しかしとても嬉しい気分は、様々な症状で苦しむクライエントさんにとっても、日常の生活を生産的に送れるまでに回復してきたときに感じる、あの嬉しさに通じているのかと思います。そういう意味では、自分にとって、「なぜだかわからないけど懐かしい」気分にさせてくれる音楽を見つけておくというのは、日ごろの精神衛生上いいことなのではないかと思い、この文章を書きました。

「たまに聴くとシアワセになれる歌」とは、「精神的に動揺する何かがあったとき、その音楽を聴くと、自分を助けに帰ってきてくれるかもしれない音楽」と、今日は、定義しておきましょうか。でも、うまく伝わったかどうか全然自信ありませんが。

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