こんにちは、高間です。
これまで、のべ2万人の悩みを聴き続けている、マインドフルな臨床心理士です。
この記事は、毎日を健康に生きるエッセンスをお伝えします。
・精神的に追い詰められてしまった
・生きることが八方ふさがりになってしまった
そんな悩みを持って生きているあなたに、何かのヒントになればと思い、記事にしました。この記事のポイントは、
- 懐かしさというものは、生きるためのオアシスのようなもの(前半)
- 懐かしさはどのように健康にいいのか(後半)
■懐かしさはこころのオアシス
こころが行き詰まっているようなとき、昔聞いた音楽が流れてくると、ハッとして、こころが一瞬持っていかれてしまうような体験をした人もいるでしょう。次のようなツイートをしています。
【懐かしい】という気持ちを感じるのは、こころに余裕がある証拠です。
苦しいときは懐かしさなんかは感じません。相いれない感情は同居できませんから。(それを応用したのがEMDRですね。)
だから、何か懐かしくなれるものがあるといいですよ。この音楽を聴くと決まって懐かしい気持ちになれるとか。それは生きるうえでのオアシスです。(ツイート改訂)
懐かしいというのは幸せなことですね。「なつかしさは、何によって引き起こされるのか」京都大学の楠見孝氏の論文があります(*1)。それによると、
- なつかしさを引き起こすには、過去の繰り返しの経験(反復接触)と長い空白時間(例: 昔のヒット曲、学校の場面)が重要である
- なつかしさが引き起こされたり、昔をなつかしむ傾向は、男女とも加齢による上昇が見られ、男性の方がやや高い
過去の懐かしいことを何度も経験するということについて、私の関連記事があります。1970年のアン・マレーのヒット曲のスノーバードについて書いたものです。感傷的な文章ですが、楠見氏の論文とはちょっと視点が違っていて、
- なつかしさは、過去の思い出と結びついているわけでなく、もっと自分の中の、個人的なものでない、より普遍的なものに結びついている「甘酸っぱい無意識」のようなものが刺激されている。つまり【今】に結びついている。
- なつかしさは、自分の深部にある原風景ようなものが刺激されている。つまり「思い出と結びついているわけでない、しかし、とても懐かしい」感じ。
▼関連記事
懐かしい歌、たまに聴くとシアワセになれる歌(回復するということ)
- 懐かしさが【今】と結びつくと、それはあなたにとって、かなり強いチカラになる。
今というものは、つまるところ最強なのでしょう。今どんな生活をしていようとも、今に生きているということは、色々な可能性が目の前に広がることでもあります。可能性と感じられないかもしれませんね。可能性でなくてもいいので、何かが広がることは確かです。【広がる】んですね。視界が開ける。そのために【あなたの懐かしさ】があるのです。
あなたはひょっとして今は追い詰められているかもしれません。その今、現在に、懐かしい気持ちを感じることができれば、追い詰められていても、まだもう少し歩こうという気持ちになるかもしれません。ほんの小さなオアシス、それが懐かしさです。
また、楠見氏の論文によると「男性のほうがなつかしいと感じる」という結果があります。これは女性のほうが現実的な生き物であるということにつながっていますね。乳幼児に、「世界は安全なんだよ」という事実を教えていくのが母親の役目ですから、現実的にならざるを得ないですね。子育ては現実であって夢物語ではないからです。しかし、母親が子育ての途中で、ときどき懐かしさに触れるのも精神衛生上いいですよ。
■遥か彼方の懐かしさ
懐かしさはこころのオアシスでした。懐かしい感じは昔のことに喚起される感情ですが、それは記憶にないくらい昔のこともあるでしょう。次のようなツイートをしています。
懐かしさの究極は、繭の中にいてまどろんでいる感覚でしょう。羊水の中でプカプカ浮かんでいる感覚ともいえます。
繭の中については、森敦の小説【月山】がおススメです。私もときどき読み返します。主人公がひと冬、山形県の月山で山ごもりをする物語です。
まるで夢のような情景です。しみじみしますよ。
人が感じる一番の懐かしい思い出は、お母さんのおなかの中です。羊水に浮かんでいる記憶。胎児の記憶を持っている人、たまにいますよね。ほとんどの人は忘れ去っていますが、それはこころの深部に残り続けています。
プールや海に入っているとき、なんだか分からないけれど、ちょっと穏やかな感じになれるときってありませんか。あれはなんだろう?と思いますが、胎児の懐かしさなのかもしれません。
ツイートで紹介した月山もそうですね。繭の中でのまどろみは、これから成虫に生まれ出る前のまどろみです。まさに胎児のまどろみです。
胎児やさなぎの中にいる感じは【退行】の極みかもしれません。究極の赤ちゃん返りですね。赤ちゃんを通り越しているとも言える。懐かしさというものは、過去の思い出という部分だけでなく、もっともっと遥か昔に戻ることもあるのです。それはある意味【とても健康的な赤ちゃん返り】と言えるかもしれません。なぜなら、だいたいの場合、穏やかな気持ちになれるからです。特別な感情や飢餓感に追われている感じではないから健康的です。
穏やかに誕生する前を夢想しているーこれはまさに【まどろみ (Golden Slumbers)】ですね。
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■懐かしさは健康に良いという研究
懐かしさと健康に関して下記のようなツイートをしています。
カラオケで歌われるのは圧倒的に懐メロだそうです。
積極的に懐かしさに浸るにはカラオケって最高ですね。ギターができる人はギターを弾いて昔のフォークソングを歌う。歌っているうちに当時の感覚がよみがえってきます。
懐かしさは、回想法などで認知症予防などにも利用されており、脳科学的にも健康に良いのです(*2)。
懐かしいという感覚は、自分の過去を思い出して、その行動をポジティブに捉えているわけです。ですから懐かしさによって自己肯定感も高まります。認知症医療でも、昔のことを話してもらう【回想法】というものがありますが、これによって認知症の進行を緩やかにするという研究がたくさんあります(*3)。
社会心理学の分野では、懐かしさは次のような効果があることが認められています。
- 懐かしさは、抑うつ感や孤独感を低下させ、自尊心や社会的つながりの感覚を高める作用がある
◇懐かしさを日常でどのように得るのか?
ひとそれぞれ、色々な方法がありますね。自分に合った方法をメモしておいて、孤独を感じたときにそれを実行できるといいですね。
- 好きな懐メロをYouTubeで聴く
- 自分で懐メロをくちずさんでみる
- 空でも雲でも眺めてみる
- 少し遠くを見ながら、いつもの道を歩いてみる
- 駄菓子屋で昔食べていたお菓子を買ってみる
- 幼い頃の写真を眺めてみる
- 昔読んだ小説や漫画をもう一度読んでみる
こんなことをしながら、少し待ってみるといいですよ。もしこころが開いてきたら、それはきっと懐かしい気持ちの片りんに触れているかもしれません。こうやって懐かしい気分に浸る。少し気分が上向くでしょう。
■まとめ
懐かしさは、こころの健康に寄与すること。また、今どんな生活をしていようとも、その懐かしさが【今、現在】に結びつくと、何かが広がっていく感じを持てるかもしれません。追い詰められていたとしても、まだ少し歩けるかもしれません。
あなたにとって懐かしい歌が、あなたの人生を切り開いてくれますように。幸運を祈っています。
Reference:
(*1)Kusumi, T., Matsuda, K., & Sugimori, E.: The effects of aging on nostalgia in consumers’advertisement processing. Japanese Psychological Research, 52(3), 150-162. 2010, http://hdl.handle.net/2433/126830(京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))
(*2)大場健太郎:懐かしさの脳メカニズム/追憶で得られる「報酬」, 河北新報, 2016 https://www.megabank.tohoku.ac.jp/tommo/pr/ishin/ishin20161102
(*3)梅本充子:地域在住高齢者を対象とした健康支援のための回想法に関する研究, 日本福祉大学, 2016
精神的に追い詰められて、なかなか懐かしい気分になれないときは、ソレア心理カウンセリングセンター(埼玉県)へ