【虐待】は世代間連鎖しない。つまり虐待心因説は間違いだった

Mother and child opening gifts 愛着とトラウマ(虐待)
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こんにちは。臨床心理士の高間です。

・虐待の原因は何か?
・虐待は負の連鎖をするというが、それは本当か?虐待されて育った子が大人になったら、やはり自分の子どもを虐待するのか?

そんな疑問を持って生きているあなたに、何かのヒントになればと思い、記事にしました。この記事のポイントは、

・虐待の原因について、これまでの説を概観しました。(前半)
・虐待の心因説、つまり親のこころの傷が原因だという説が崩れ始めている。(後半)

※この記事は、精神科医・高橋和巳先生の児童虐待の研修で使うガイドブック(*1)を中心にして、高間が臨床で得た知見を若干追加しながらまとめたものです。詳細を知りたい方は、高橋先生の専門家を対象にした研修へご参加ください。申し込みはこちらです。

■虐待はこころの傷が原因で発生するのか?

Mother and child opening gifts
親子がチカラを合わせていれば、虐待はない

虐待は、親のこころの傷(心因説)が原因でもないし、世代間連鎖もしない、という事実を解説します。次のようなツイートをしています。

【虐待は連鎖しない】-専門用語を使うと【愛着障害は連鎖しない】ということ。
これは、愛着臨床にとって、希望の癒しワードだと思いませんか?ときどきTwitterでも発信していますが、虐待連鎖という都市伝説はいい加減、消滅させましょう。
高橋和巳、ジュディス・ハーマン、中井久夫、各先生方も書いてます。(ツイート改訂)

◇虐待は親のこころの傷によって起こるという説

児童虐待のレポートは H.Kempe(*2)によるものがスタートとされています。ここでは親による子への虐待というものは、「思い違いではなく実際に存在するものである」と報告されました。

これ以降、この虐待は【どの家庭でも起こりえるもの】という認識が広がり、そのようなKempeに追随するような研究が相次ぎました。これらの研究では、児童虐待を、「親側にショックな出来事が起こってそれによってこころが傷ついた結果、虐待が起こった」、つまり【心因説】と捉えています。この心因説では主な虐待の要因は、次のように説明されています。

  • ①親の人格や心理的特徴が脆弱
  • ②親に精神障害がある
  • ③親子の生活の場である社会環境が劣悪
  • ④親も虐待されてきた
  • ⑤家族全体が機能不全である

①は、子どもを嫌って拒絶する母親の症例研究が多数あります。しかし今のところ、①を代表するような人格傾向を確定することはできていません。依存的、衝動的、未熟、攻撃的、低い自己評価などの因子は、抽出されてはいます。そして、これらは子に対する病的な反応であり、母親側に【愛着障害】があると診断される場合も多いようです。しかし、これは誤診であることも多いのです。関連記事をご覧ください。

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②は、「母親がうつ病にかかっている」という報告が多く、重度の精神疾患(統合失調症など)は少ないという結果が出ています。つまり虐待は【うつ病】と深いつながりがあるという結果です。

③は、「親子が社会的に孤立していたり、経済的に困窮していたり、離婚・別居・夫婦の不仲などの不安定な婚姻関係が、虐待を誘発することもありうる」というものです。また③が②のうつ病の遠因になっているという指摘もあります。この環境因は、生活の場だけでなく、子ども側の問題、つまり知的能力障害(発達障害との関連)があったり、未熟児、障害児、多胎児など、育てにくい養育環境である場合も含みます。

ここでは【子どもの知的能力障害】については言及されていますが、【親の知的能力障害】については、ほんのわずかな研究を除いては議論されていません。しかし実は、この親の(軽度)知的能力障害が、虐待問題の核心であるのです。関連記事をご覧ください。

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④は、虐待は世代間連鎖するという主張のよりどころとなるものです。虐待の研究では、虐待が親子二世代に渡って生じているという認識があり、それが世代間連鎖という仮説を強化してきました。なぜ虐待行為が親から子へ伝わるのかは、精神分析や社会的学習理論などによって説明されてきました。これによって、虐待は育児を通して子どもに伝わっていくものであると(間違って)信じられるようになりました。関連記事ではその誤解について説明しています。

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⑤は、家族システムという側面から虐待の横行する家族を捉えたものです。機能不全の家族とは、ストレスが日常的にある家族で、子育てや生活などの家庭の機能が不完全な状態を指します。実際には、親から子どもへの虐待、ネグレクト、子どもに対する過剰な期待など、様々な要因がこの機能不全に含まれます。要するに、「機能不全というと、虐待からそうでないものまでが含まれている」ということです。

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■虐待の心因説の揺らぎ

Handprints on the wall
虐待の常識がほころびかけている

虐待は心因なので、【親のこころの傷が治れば、親子関係が正常化し家族が再構築していける】という愛着アプローチが、司法や保健の現場で使われるようになりました。【家族再統合】を図るのです。

しかし最近は、家族再統合に失敗して、家庭に返した子どもが結局は虐待死してしまうという事件が、報告されるようになりました。これは今に始まったことではなく、こういうことはこれまでも起きていたのですが、それがあまり報道されてこなかったというメディア側の問題も含んでいます。つまり虐待の心因説が揺らぎ始めているのです。

このように虐待については諸説あり、決定打に欠けるものなのです。今のところ、複数の危険因子がからみあって虐待が発生するという相互作用モデルが、現在、厚生労働省の資料(*3)では採用されています。親が虐待をするリスク要因として次のものがあげられています。つまり、この資料を見て分かるとおり、厚生労働省は、親の知的能力障害についても認識はしているのです。私のほうで【】の記号で強調しました。

  • 妊娠そのものを受容することが困難(望まない妊娠)
  • 若年の妊娠
  • 子どもへの愛着形成が十分に行われていない。(妊娠中に早産等何らかの問題が発生したことで胎児への受容に影響がある。子どもの長期入院など。)
  • マタニティーブルーズや産後うつ病等精神的に不安定な状況
  • 性格が攻撃的・衝動的、あるいはパーソナリティの障害
  • 精神障害、【知的障害】、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存等
  • 保護者の被虐待経験
  • 育児に対する不安(保護者が未熟等)、育児の知識や技術の不足
  • 体罰容認などの暴力への親和性
  • 特異な育児観、脅迫的な育児、子どもの発達を無視した過度な要求

■まとめ

「虐待はこころの傷が原因で発生する」という心因説は、再検討が必要であることを解説しました。

このことは、虐待した親、虐待された子どもには、どのような支援が必要なのか、ということについても、再検討が必要になるということです。支援については別の記事で解説します。

※児童虐待について10本の記事をまとめたものを書いています。そちらから各関連記事に飛んでいただくと網羅的にゼロから理解していただけます。

▼虐待について【まとめ記事】
虐待されてきた人々がゼロから生きるために知っておくべき10ステップ【まとめ】

残念ですが、虐待はなくなりません。私たちにできることは、

・虐待されている人々をいかに救い出して、いかに回復させるか です。

More Love magazine/ Mother Teresa holding baby ; United Kingdom

Reference:

(*1)高橋和巳:児童虐待防止 支援者のためのガイドブック(改訂第2版), 2017
(*2)H.Kempe: The battered-child syndrome, 1962
(*3)厚生労働省:子ども虐待対応の手引き, 2013 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/dl/120502_11.pdf

親との関係が不調と思う人、自分が子どもを虐待しそうと思う人は、ソレア心理カウンセリングセンター(埼玉県)へ

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