強迫的な行動への愛の処方箋|泉谷しげる~昭和の頑固おやじへ愛を込めて

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臨床心理士・公認心理師の高間しのぶです。

  • 説明がどんどん細かくなっていく人がいる。もっとアバウトに話してほしいという非難めいた気持ちが出てくる。
  • 1つのことを聞くと、結構長い話が返ってくる人がいる。途中、話があらぬ所に飛んだりして、話を追うのに大変。内心、イライラしている。
  • 話しの内容が精密な印象を受ける人がいる。逆に精密すぎて全体が分からなくなる。「森」の話をしたいのに、「木」の話になっている印象がある。
  • 自分では分かっているが、決まったルールがあって、それをしないと不安で仕方がない。

そんな人は、強迫的な人なのかもしれません。そのような親、兄弟、友人、相談者をお持ちのあなた、あるいは当事者の方がこの記事を読むと、

  • 強迫的な言動をする人々に「優しく」接することができるようになるでしょう。
  • その結果、強迫的な言動をする人々の強迫的な部分が緩和される可能性もあります。
  • 強迫的なことのメリットが分かります。

■強迫と頑固さとの関連

今日のテーマにつながる私のツイートを紹介します。

強迫性障害は「昭和の頑固おやじ」のような性格があるかも?何を言ってもテコでも動かない。ならば、昭和のおやじへの対応を考えればよい。昭和おやじへ接するように強迫症状へ接するわけです。ここは皆さん、今日一日使って考えてみましょう。何が昭和的なのかを!答え合わせは明日!☺

「分かっちゃいるけど止められない」というのは「完璧を求める頑固さ」があります。アバウトを許さないのです。だから何百回も確認し、何時間も洗うのです。この頑固さは、昭和おやじの頑固さと見てみるといかがでしょう。なんか愛すべき頑固さのように見えてきませんか?ここに強迫的な人への対応(治療)のコツが隠されています。

◇強迫性障害と強迫性パーソナリティ障害の違い

今回の話題に入る前に強迫についての注意があります。精神医学的に「強迫」を眺めると、DSM-5では次の2つの病態があるとしています。もちろん、この2つに入らない、病気とはいえないものもあります。

  • 強迫性障害
  • 強迫性パーソナリティ障害

強迫性障害と強迫性パーソナリティ障害は診断上は別物であり、関連性はないとされています。そして強迫性パーソナリティ障害の中心的な傾向としては(*2)、

  • 精神分析的には「肛門期」人格であり、几帳面、倹約家、過度に良心的で融通が利かない。これは精神的に未熟なところに起因する可能性が大きい。
  • 懐疑的、温かみのない感情、偏狭さなどの特徴があり、これらは統合失調症スペクトラムの特徴にもつながるものがある。

つまり、強迫性パーソナリティ障害は複数の見立てが混在している曖昧な概念であると考えられるのです。そのため、強迫について考える場合は、強迫性パーソナリティ障害は除外して、強迫性障害のみを考えていいでしょう。今回もその基準に合わせて書いています。

ただ、強迫性パーソナリティ障害のこの混在した見立ての中でも、「精神的に未熟」という肛門期人格の部分は、強迫的な行動と関連している部分があり、頑固さを考える補助にはなるでしょう。

余談になりますが、タイトルに「泉谷しげる」とあるのは、「昭和 頑固おやじ」でググると2011年のアンケートでは、泉谷しげるが一位だったからです。60代半ばの私からすると「寺内貫太郎一家の小林亜星」が頑固おやじのトップバッターですが、今の人は知らないでしょうね☺

頑固について考える前に、強迫性障害について簡単におさらいしておきましょう。

■強迫性障害の困りごとの中心は何か?

強迫性障害の中核的な困りごとは、「〇〇せずにはいられない」という考えから離れることができないことです。

例えば、ガスを切ったか、水道を止めたか、鍵をしめたか、気になって何度も何度も確認してしまいます。
また、手が汚れているのではないか、皿に洗剤がついているのではないかと、何十分も何時間も洗い続けたりします。

このような行動をする人々は、ヘンなことをやっていると自分では分かっているのです。でも分かっちゃいるけど止められない。この部分が障害なのです。上の例は、「1つのものが気になってしょうがない」ということですが、見方を変えると、以下も強迫性障害のジャンルに入ってきます。(*1)

  • 自分の顔が醜く思えてしょうがない⇒醜形恐怖
  • 家にあるものが必要なものと思えてしょうがない。捨てられない⇒ためこみ症
  • 自分の毛を抜きたくてしょうがない⇒抜毛症
  • 自分の肌をむしりたくてしょうがない⇒皮膚むしり症

■強迫的な頑固さとは?

ここからいよいよ本題です。私の別のツイートです。

【強迫性障害の頑固さ・その1】ここは昭和の頑固おやじに通じるところがあります。では昭和おやじの愛すべき頑固さとは?
①決めたらテコでも動かない。理由を聞いても言わない。その結果、皆の反感を買い孤立する
②皆の幸せを願って、自分の幸せは二の次
③お涙頂戴ストーリー好き(一杯のかけそば等)

昭和の頑固おやじの持つ特性を列挙してみました。この3つだけではありませんが、①と②は、「昭和 頑固おやじ」で検索するとヒットしたサイトの情報をまとめてみました。③は私の実感です。

もう少し、汎用的な表現に変えてみると次のようになります。

  • 信念を押し通し、孤立する
  • 自分はガマンする
  • 美談に酔う(特に、高度成長期に青春を生きた80歳以上の人)

この汎用的な特性について、強迫症状にどのように効いてくるのかを考えてみます。

■その頑固さへの適切な対応が、強迫行動を弱める

【強迫性障害の頑固さ・その2】
頑固おやじの愛すべき特性が分かると、その特性への対応を考えればいいだけ。
①まず孤立させない
②次に、我慢させない
③【重要】最後に、ベタに感動させる
これが、強迫的な人々へのプレゼントとなります☺

頑固おやじへの対策は上の通りで、実際にこれを強迫的な人にどう使っていくかをまとめてみました。

◇孤立させない

強迫的な人は友人が少ない印象があります。

その強迫性ゆえに、しつこい感じ、頑固な感じに嫌気がさして離れていく人もいるでしょう。またその強迫性ゆえに、他人にもきびしくなったりします。その結果、孤立するのです。ですから、まず、孤立させないという環境が必要です。

カウンセラーなら、相談者の話を聴きつつ、助言せずにいましょう。強迫性ゆえに、自分のやり方に固執しますから、助言は必ず否定されますので、助言はしないという「聴く鉄則」に従うだけです。

それでも「見放してないよ」というメッセージを出しつつ聴く。相手の顔に、愛すべき頑固な昭和おやじの顔を重ねつつ、支援していきましょう。「あなたの頑固さには参るわ」と思いつつ、笑って対応していく。このクスッと笑いながらの対応ができれば、そのサポートも長続きするでしょう。しばらくすれば、あなたを孤立させないという対応に愛を感じてくれて、あなたにこころを開いていくでしょう。

心理療法をやっていらっしゃる方は、ここで自分との対決があります。余計なことはしてはいけないという縛りが課せられるからです。そこで悶々としてしまうならSVを受けてみましょう。

◇ガマンさせない

これは難しいですね。ガマンする人は頑固です。強迫的な人は【ガマンが信条】の人です。難攻不落の砦のように見えます。彼らが自分の直観で選択したものを拾ってあげることです。

例えば、洋服を買うとき、彼らが一番最初に手にとったものを支持してあげるのです。「それいいね!買おう!」と。おそらく彼らは手に取ったものを返して、無難なものに変更するでしょう。そして無難なものを買う。でもそれでいいのです。あなたが、彼らが最初に手に取ったものを支持したから。

これが繰り返されると、彼らも自分のガマンを解いて、自分が直観的に良いと思ったものを買うようになります。すると初めて自分の幸せのために買い物できるようになります。

◇ベタに感動させる―涙活

こころのデトックスに、「週末は映画を見て泣くと良い」というのがあります。これを涙活(るいかつ)と言うそうです。涙活にはベタな話が一番です。

強迫的な人の一部には、そのようなベタな感動話が好きな人々がいます。そういう人にはお勧めの本は…

  • 小学生のための道徳の本
  • 新美南吉などの童話
  • 映画・寅さんシリーズ

このような定番ベタ感動本をシャワーのように浴びせるのも一手です。

なぜなら、感動するということは涙ウルウル状態になります。暖かい安心感のようなもので包まれます。これによって不安が軽減されるでしょう。強迫的になっているときは感情として不安が増大している状態なので、その反対の安心を注入すると、一時的に不安が低減し、強迫行動も納まるでしょう。

原理的にはEMDRと同じです。EMDRとは目を左右に動かしてトラウマを除去する心理療法です。こんなツイートもしています。

【日常的EMDR】不安と安心は共存できません。不安は低減させようとすると増大する特性があります。だから安心を感じる時間を増やすことです。すると結果的に不安は減ります。これを日常的EMDRと呼びます(高間用語☺)普段使いでやれるトラウマ処理。つまりカウンセリングってEMDRなんです。

涙活は一時的な安心なので、永続的な安心を得るためには、安全基地を作る必要があります。安全基地については、下記の記事が詳しいです。

■頑固さへ対応しないことが、実は頑固さを弱める

強迫的な人を「昭和の頑固おやじ」と見る最大のメリットは、実は、これからお伝えすることなのです。

  • 「愛すべき頑固さ」という視点は、強迫的な人の友だちや治療者に【優しい視点】というアイテムを授けます。

優しい視点アイテムを持てば、強迫的な人を色眼鏡でみることを遠ざけるでしょう。しだいに強迫行動を優しく見守れるようになるでしょう。これによって「相手を治さなければいけない」という視点から離れることができます。そしてその眼差しは、強迫的な人々の不安をゆるめ、頑固さを融かしていくでしょう。

周りの人が相手を治そうと躍起になってしまうと、よけいに頑固さが強化されます。それにはこの【優しい視点】が役に立ちます。

この優しい視点を持つためには、昭和の頑固おやじをイメージすればよかったのでした。それ以外に、カウンセリングの視点からやれることは色々ありますので、ひとつご紹介しておきましょう。

◇頑固者がゆるむときを見逃さない

頑固な人は、すべてに渡って固いと思いがちですが、そうではありません。彼らも(不覚にも)ゆるんでいるときがあるのです。例えば、

  • なんでもきっちりやる人なのに、靴をそろえるときは雑だ
  • 自分の体重はきっちりと管理しているのに、料理を作るときの香辛料の使い方がものすごくアバウト
  • 机の上はキレイに整頓されているが、PCのデスクトップはぐちゃぐちゃ

このように頑固おやじな感じがゆるんでいるときをチェックしておくのです。そしてあなたのメモに記録しておきましょう。このメモがたまっていけば、あなたが強迫的な人を見る目が変化していくでしょう。つまり、相手を変えるのではなく、カウンセラーや友人側が受容的な姿勢に変わるということです。

この記録は、相手には見せないことです。相手がそれを読んでしまうと、それが気になってきちんとやるようになるでしょう。これだと、せっかくゆるんでいた部分を緊張させるため逆効果になります。

■強迫行動のメリット

最後に、強迫行動のメリットについてお伝えしておきます。E.アーロン博士のHSPの本が参考になります(*3)。HSPは、「人前で話したり、発表する」仕事が最適であるという話の中で、強迫的行動について書かれています。

  • 「準備を怠らない」という強迫的に思える行動は、HSPにとっては必要な行動で、「しつこいくらい準備をすること」によって物事はスムーズに運びます。

しつこいくらいの準備ーこれは強迫的な行動ですね。それが功を奏することがあるということは覚えておきたいものです。強迫的でない人も見習いたいことですね。

■まとめ:愛すべき昭和頑固おやじと強迫的行動

強迫的な人は昭和の頑固おやじのような風をまとっていました。そんな彼らへの対応としては、

  • 孤立させない
  • ガマンさせない
  • 【重要】最後に、ベタに感動させる でした。

そして何より、優しい視点を持つことでした。そのためには、愛すべき昭和の頑固おやじをイメージすればよいのです。友人や治療者に優しい視点がないと、強迫行動はなかなか収まりません。

参考文献:

(*1)松崎朝樹:精神診療プラチナマニュアル, メディカル サイエンス インターナショナル, 2018
(*2)高橋和巳・野口洋一:カウンセリングセミナー講義テキスト・上級コース, HCM, 2018
(*3)Elaine N. Aron: The Highly Sensitive Person: How to thrive when the world overwhelms you, 1996

当事者でも、ご家族でも、強迫的な行動に困っているなら、ソレア心理カウンセリングセンターへ 相談する

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