夜回り先生に休息を【思春期相談の難しさ】

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改訂 2020年4月30日:思春期への対応についての最新の情報については下記リンクからダウンロードください。

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夜回り先生(水谷修)は、ご存じの方も多いかと思います。水谷氏のブログ更新が止まったことを知り合いから聞きました。今回、彼のブログは初めて見ましたが、ご本人は抑うつ状態になっているのでしょうか。

皆様ご存じのように、彼は青少年を助けるために、精力的な活動を継続しながら、長い人生を歩んできました。夜回りは画期的な取り組みでした。私も彼の活動には注目していました。

ただ老婆心ながら、そのやり方だと、しんどいだろうなとハラハラもしていました。今回は、その疲労がピークに達したのだと思っています。持病の闘病もありますし、63歳という年齢のこともあるのでしょう。また持ち前の誠実性もあるでしょう。それらが重なった上に、真摯な多数の相談業務をこなしつつ講演もこなす。そのやり方に限界が来たゆえの、ブログストップなのだと思いました。

私は、ブログストップしたことに彼の苦渋の選択を思いますし、それよりも何よりも、その選択ができた彼は正常だったと思いました。彼はその選択をして、何かを守ったのです。それは大人としては当然のことをやったまでだと思いますよ。

また彼は復活するでしょう。ここで終わる人ではありません。ただ復活するとき、ちょっとこれまでと違うやり方を模索するでしょう。その新しいやり方が何かは分かりませんが、それがどんな方法であったとしても、私はそのやり方に一票を投じます。

うつ病と軽症(新型)うつ病の違いについて

ここからは、うつ病についての一般的な話になります。

水谷氏は、どうもうつ病というものに対して、10代の視点で捉えている節があります。「うつ病というものは病ではなく、外へ出ることが必要なのだ」と。それはそういううつ病もあります。つまり10代の思春期心性を持ったうつ状態は、そのようなものだと言えるでしょう。40代の引きこもりの人も、思春期心性のままであるなら、それは10代のうつ状態と同じです。

思春期のうつにはクスリもカウンセリングも効きにくいので、10代の相談が多い(あるいは中年の引きこもり相談が多い)水谷氏にとっては、「うつ病とは病気ではない」と思うのは自然の流れのように思います。

この思春期心性のうつを、軽症うつ病あるいは新型うつ病と呼んでさしつかえないと思います。認知行動療法はほぼ効きません。こういううつに対しては、思考を変える方法は失敗することが多いのです。それは精神科医の先生方も経験してきていることだと思います。

そういう人たちに対して、外へ出そうとするやり方で、うつから抜け出せるのか。私の少ない経験からして、うまくいかないことが多いでしょう。その失敗によって患者ばかりでなく、治療者側も自分のやり方が効かないことへの自責の念を募らせてしまう、イライラしてしまう。治療者自身がそれによって抑うつ的になってしまう。こういうことは精神の仕事をしている人々には少なからず経験があるはずです。

思春期心性の人々への対応はそれほどに難しいのです。彼らは、答えを求めて止まない人々ですが、あらゆる答えを否定する人々です。ですから水谷氏が、著書を読んでくれ、そこに答えがあると言っても、その言葉は彼らに届きません。それは彼らにとっては「答え」ではないのです。

彼らの答えは書籍の中にはありません。答えは彼らの中にあり、自分の答えに出会ってそれを十分に咀嚼(そしゃく)するまでには、十分な時間がかかるのです。ですから治療者は、答えを言わないことが求められます。ここが思春期臨床(あるいはもっと広く、思春期心性を持った人々の臨床)の難しさなのです。

答えは自分の中にあるというのは、一般的なカウンセリングの原則でもありますが、その自分の中のものを発見することが、思春期心性の人々にとってはかなり長い物語になるのです。大人の心性を持った人々の悩みが一冊の小説、あるいはまれに短編小説で完結するとしたら、思春期心性の人々のそれは、全十巻とかにおよぶものになります。

なぜ全十巻に及ぶのか、そのことを治療者も熟知していないと、治療の過程が、治療者にとっても患者にとっても、先の見えない迷路に迷い込み、不幸な結果に終わってしまうこともあるのです。

どのくらいの見通しになるのかの予測が、治療者の見立てには必要になってくるのです。長いと分かっていれば、治療者も腹をくくります。そうするとまず治療者が安定する。その安定は患者にとっては福音となります。患者も安心して全十巻の物語を進めていけるでしょう。

水谷氏自身は、思春期心性ではなく、大人の心性をもった成人です。ですから10代と同じではないのです。大人の人は、ちゃんと「うつ病」になることができます。そこが10代とは違います。過重労働による、ちゃんとしたうつ病なら、休養と薬がまずは必要になります。いま水谷氏が必要なのは、その2つでしょう。まず2週間しっかりと休むことです。

水谷氏はブログで、アメリカ、日本、韓国のトップは、大人げないと書いていましたが、その通りなのです。彼らは幸いにも病気ではありませんが、思春期が抜け切れていない人々なのでしょう。だからちょっとした複雑な心情(こころのヒダ)を理解するのは困難なのです。それが国際関係を悪化させている誘因にもなっていそうなのは、なんとも残念なことです。

日本の場合、そこに追従する大人の忖度(そんたく)が加わるのですから、話がやっかいになります。はだかの王様とそれを持ち上げる家臣たちの構図です。それは家臣たちが生きるための方便ではあるのですが、方便も使いすぎると硬直してしまいます。その硬直化が今の国際社会の状況を象徴しているのです。

思春期心性というのはそれ程までにやっかいなもので、10代の(思春期心性の)カウンセリングは骨の折れる作業なのです。うまくいかないことも多いです。軽症うつ病から本当のうつ病へ変化させていくことが、思春期心性を発達させるための一つの指針となります。本当のうつ病とは「実存的なうつ病」と言えるでしょうか。そこには執着というものを越えた感覚があります。

そこへ行くまでには、まずは執着の正体を実感しなければならない。けれど、それはとてもやっかいなことなのです。治療者も患者も、双方骨の折れることなのです。それを見越してやっていかないと、つまり長時間かかることを心に留め置いて治療をしていかないと、「私は治療者としての能力がないのか」と治療者側の自責感が大きくなって、バーンアウトしてしまいます。

思春期心性の詳しい治療法については、ソレアのトップページの【境界性パーソナリティ障害の心理療法】のファイルを参照してください。境界性パーソナリティ障害の一類型として思春期心性について話しています。

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