幼児型記憶システムという【トラウマの記憶】から脱却する方法

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トラウマの記憶とは何か?

今回は記憶についてです。中井久夫先生の「記憶・徴候・外傷」は長編の専門書なのですが、ハッとする示唆に富んだ名著です。今回は、そこからの話です。

人間の記憶システムというものは、3歳~4歳の前後で、システムが変更されると言います。例えていうなら、それまで紙に手書きで記録していたものから、コンピューターのメモリー上への記録に変化したくらいの差があるのでしょう。いや多分、それ以上の変更が起こっています。

三歳以前の記憶は、単発的で直感的、感覚的、鮮明で変化しない、何かのきっかけで生々しく再現されるものです。これを幼児型記憶システムと呼びます。
三歳以降は成人型記憶システムで、認知をベースにした連続体になります。自分の歴史の一部として記憶を刻んで風化していく記憶群です。朽ちていく記憶たちです。

人間はこの二つの記憶システムを持っているのです。

ここでPTSDつまりトラウマの記憶が登場します。トラウマとは、この三歳以前の幼児型記憶システムによって記憶されたものなのです。フラッシュバックという症状があります。死ぬほどの体験をしたその出来事がありありと蘇ってくること。このフラッシュバックは、幼児型記憶システムによって貯蔵された記憶と言います。

なぜ危険が迫ったときの記憶は幼児型記憶システムによって貯蔵されるかというと、そのほうが咄嗟の判断をするときに効率的だからです。瞬時にアラートが鳴って、何をしないといけないかを瞬時に決定して行動できるからです。成人型記憶システムを起動させていては死んでしまうかもしれません。人間が生存するために、幼児型記憶システムも残ったのでしょう。

このように成人型記憶システムを獲得した後でも、三歳以前の記憶システムがなくなるわけではないのです。幼児型記憶システムは記憶のメインシステムではありませんが、サブシステムとして必要不可欠のものとしてずっと残っているのです。人が生存していくうえで大切なシステムだからです。

PTSDは、三歳以前の記憶システムによって記憶されたものが、不用意に出現することを言います。こんな記憶システムなどなくなればPTSDもなくなるので良いのでしょうが、それがないと人類は滅んでいたでしょう。危険の瞬時の対応が遅れるから。

PTSDの回復へ向けて

ここからはPTSDの治療論になりますが、PTSDの症状は他の病気の症状が消えるようには消えてくれません。またPTSDの記憶を忘れることが治療でもありません。

PTSDの記憶はなくなりませんが、安心・安全な場所で少し語ることで、それは恐怖という力を無くしていきます。少し滑稽な物語に書き換えられていきます。家族療法でいうと、ドミナントストーリー(症状を作っている話)がオルタナティブストーリー(別の風通し良い話)へ、斉藤学先生でいうと、悲惨な物語が冒険譚に変化していくということです。シリアスなサスペンス番組がドリフターズのコントに代わっていくようなものです。そうなっていけば、三歳以前の幼児型記憶システムによって記憶された外傷記憶の治療は成功と言えるでしょう。

PTSDを負ったかもしれないけれど、私の今後の人生は何とかやっていけるだろう、そういう感覚です。記憶自体に個別にアプローチするのではなく、その人の人生への眼差しが少しワイドになること。そうなれば記憶のテイストが変わります。そのためには安心・安全という環境が重要になってくるのです。その環境をセラピストとの間で作っていくこと。これが治療です。

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