臨床心理士の高間です。
これまで、のべ2万人の悩みを聴き続けているマインドフルな臨床心理士です。
・子どもを道連れにする親子心中のニュースをみるたびに胸が痛くなる
・そんな道を選ぶ母親に腹も立つ
・心中する親子の生活はどれ程のものだったか
そんな気持ちを持って生きているあなたに、何かのヒントになればと思い、記事にしました。この記事のポイントは、
- 親子心中は、痛ましい事件ではあるが、虐待ではない(前半)
- 親子心中は虐待ではないことを、データにそって解説(後半)
※この記事は、精神科医・高橋和巳先生の児童虐待の研修で使うガイドブック(*1)を中心にして、高間が臨床で得た知見を若干追加しながらまとめたものです。詳細を知りたい方は、高橋先生の専門家を対象にした研修へご参加ください。申し込みはこちらです。
■母子心中は虐待ではないケースが多い
母子心中というと「母親は加害者である」と見られます。そして死んだ子どもは虐待されたと報道されます。ある論評では「最悪の身体的虐待」とも。私たちもそれを見て、痛ましい事件だとは思いながら思考停止して報道側の論調を受け入れます。そのくらい、重いテーマだからです。その母子心中について解説しました。結論は、母子心中は虐待ではない。むしろ愛着関係があるから心中するのです。次のようなツイートをしています。
【1人で死ぬのは怖い】じゃあ、誰かとなら死ねるのか?思春期の子ではそういう事件がたまにありますね。
でも母子心中(親子心中、一家心中)はそれとは違います。残していくのが不憫だから一緒に死ぬ。
1人で死ねないわけじゃない。道連れにしているわけじゃない。そして子どもも本心は(たぶん)イヤじゃない。
殺人という繊細な話ですが、心中には心中に至る物語があるのです。(ツイート改訂)
- 心中の原因は、愛着関係が成立しているから。
- 心中とは深い関係にあるものが一緒に死ぬこと。愛着関係が成立していなければ一緒に死ぬことはない。
つまり、普通の親子関係で起こりうることなのです。生きていたときの生活は、親子で追い詰められてはいたかもしれませんが、お互いにこころを通わせる瞬間もあったでしょう。虐待の場合は、親子間の愛着が成立していないので、こころを通わすことなく、子どもだけが死んでいきます。親はたいした罪悪感もなく生き残ります。これは虐待の原因を考えればわかります。
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「母子心中するときは、親が子どもを虐待していた」という誤った定説があるようです。後述する厚生労働省のレポート(*2)にも、心中による「虐待死」という表現が使われています。しかし、レポートにもあるように、心中する場合は、【親がかなり追い詰められている】ことが動機となっているようです。道連れとか虐待ではないのでしょう。
たしかに子どもには未来がありますし、公的な保護を受けられるので、親が居なくても成人していけます。親が不憫に思うことはない。親はそのことは十分に分かっています。それにもかかわらず、子どもと心中する。それだけ、いろんな選択肢が取れなくなっている状況なのでしょう。子どもを残して死ねないという気持ちもあるでしょう。子どもと愛着がつながっているから一緒に死のうとするのです。放ってあの世へ行けないのです。虐待による死ではないことが分かります。
とにかく【追い詰められ選択肢が狭まっている】ということが、母親にとっても子どもにとっても不幸なことです。育児に行き詰まったら、まずは【189】(いちはやく)児童相談所に電話しましょう。通話料無料でつながります。児童相談所とは、文字通り「(親が)児童(のことで)相談(する場)所」のことですから。
■データに見る児童虐待と母子心中
児童虐待と母子心中について、厚生労働省による調査と学術論文の2つから解説します。結論は、母子心中をしようとする親には虐待はなかったといえそうです。
◇厚生労働省の調査
平成15年度から児童虐待の調査(*2)を続けており、現在は令和2年9月の第16次報告になります。そこには、心中以外の虐待死と心中による虐待死という項目があります。それによると、
- 心中以外の虐待死(51例・54人)には、児童相談所などが関与している例が多い(86.2%)
- 心中による虐待死(13例・19人)は、児童相談所などの関与が少ない(23.1%)。児童相談所の関与は1例(7.7%)
ここでいう児童相談所などとは、児童相談所、市区町村虐待対応担当部署、保健センター、要保護児童対策地域協議会などです。
また、子どもを殺した動機については、
- 心中以外の虐待死(51例・54人)には、「保護を怠ったことによる死亡」、「しつけのつもり」など、子どもへのネグレクトや身体的虐待を疑わせる行動があります。
- 心中による虐待死(13例・19人)は、「保護者自身の精神疾患、精神不安」、「育児不安や育児負担感」など、保護者が追い詰められている状態にあったようです。
この結果からみると、心中以外の虐待死については86.2%ありますので、日ごろから関連機関が監視していた事例ということになります。つまり日常的に虐待が行われていた家庭ということです。それに比較して、心中による虐待死については23.1%で、児童相談所が関与していた事例は1例のみでした。つまり、日常的に虐待が行われていたというよりも、突発的に虐待が発生して子どもと母親が死んでしまったという印象を受けます。つまり、【心中による虐待死は、虐待による死亡でないケースが多い】と推測できます。
◇学術論文より
日本における母子心中を扱った研究(*2)では、1912年(大正1年)から1995年(平成7年)までの84年間に発生した親子心中事件をまとめています。それによると総数は3187件です。母子心中・児童虐待数の増加率をみると、1990年~1995年では【児童虐待が増えて、母子心中は減少】しています。つまり母子心中と児童虐待は反比例の関係にあるようです。
この研究によると母子心中に至った動機がわかります。以下の結果、親の障害、生活苦、育児ノイローゼがその動機と分かります。虐待はありません。1950年代後半から育児ノイローゼによる母子心中が増えていると報告されています。育児ノイローゼの内容が特定できませんので、それが虐待であるかどうかについては検討できません。
- 両親いずれかの【疾病・障害】による(25.2%)
- 【生活苦】による母子心中多いのは、①1912年~1931年(大正1年~昭和6年)、②1947年~1961年(昭和22年~36年)、③1977年後半~1980年(昭和52年~昭和56年)。①は関東大震災や世界恐慌の時期、②は戦後~高度成長期へ入る前までの時期、③は財政赤字が恒常化した経済混乱の時期です。
- 【育児ノイローゼ】による母子心中が1950年代後半から急増している。核家族化が進み始めた頃。
- 夫婦 ・家庭不和による心中は減少している
■まとめ
母子心中は、母親が加害者と見られます。構造上はそうでしょうが、心情は違います。子どもが不憫だと思って、かわいそうと思って一緒に命を絶つという、母親の壮絶な決断がそこにはあるのです。愛着関係があるゆえの心中。虐待とは程遠い関係なのです。
厚生労働省や学術論文から心中についてのデータを紹介しました。データを見ても、心中と虐待は同じものではないことが分かります。
※児童虐待について10本の記事をまとめたものを書いています。そちらから各関連記事に飛んでいただくと網羅的にゼロから理解していただけます。
▼虐待について【まとめ記事】
虐待されてきた人々がゼロから生きるために知っておくべき10ステップ【まとめ】
残念ですが、虐待はなくなりません。私たちにできることは、
- 虐待されている人々をいかに救い出して、いかに回復させるか です。
Reference:
(1)高橋和巳:児童虐待防止 支援者のためのガイドブック(改訂第2版), 2017 (2)厚生労働省:子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について (第16次報告),2020, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190801_00001.html
(*3)井筒和香菜ら:日本における母子心中の実態 第2報ー児童虐待との関連性ー, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshhe1931/64/Appendix/64_Appendix_86/_pdf/-char/ja
親との関係が不調と思う人、自分が子どもを虐待しそうと思う人は、ソレア心理カウンセリングセンター(埼玉県)へ