ヒプノセラピー

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私は、以前は催眠療法を看板に掲げてやっていました。

年齢退行、前世療法、インナーチャイルドセッション、ハイヤーセルフセッションなどです。今は、ご希望があればやる程度で、意識的に催眠療法へ誘導することはしていません。誘導するというのは、ある意味、クライエントさんの力を奪うことにもつながるからです。催眠自体が嗜癖となり、依存の源になってしまうのです。そして、力を奪ってしまうと回復の道から大きく外れてしまいます。

催眠療法とは、一言でいうと、クライエントさんに普段とは違った意識状態(トランスといいます)になってもらい、過去へ行ったり、前世へ行ったり、未来へ行ったりしてもらい、そこで予測もできない場面を仮想的に追体験することよって、感情を解放させながら気づきを促進する、という技法です。仮想体験中に暗示を入れる技法もあります。

催眠の効果としては、暗示による認知変容のほかに、泣いたり感動したりすることによるカタルシス効果も大きいと言えます。

実際、催眠療法のあとは、皆さん顔がさっぱりしています。しかし、その感情の解放が気づきの促進へつながるか、という部分が問題とされることも多いのです。

多くのクライエントさんはさっぱりしたことで満足し、それ以上、先へ進む動機づけが薄れてしまうこともあります。心の表層をマッサージするという意味では催眠はとても良いと思いますが、もっと密(ひそ)やかな部分を扱わなければ治療的にならない場合は、このさっぱり感が邪魔をします。

また、「さっぱり」感というのはセラピーで味わうものではなくて、日常生活の中で自然と湧き出してくるものでなければなりません。セラピーはその鉱脈を掘り起こすための下ごしらえのようなもので、鉱脈はあくまでも日常生活をしていく中で、クライエントさんが最後に自力で掘り起こすものと、私は考えています。

ただ、自殺などの危機的状況がクライエントさんに迫っている場合などには、催眠は有効に機能することがあります。

自殺願望があるときは抑うつ度が高く危機的な状況にあり、その状態から少し落ち込んだりすると、それが地獄の底まで落ち込んだと錯覚してしまいます。抑うつ度が高い場合は、その錯覚の落下度が半端じゃありません。そのためにはクラエントさんが危機を脱するまで、継続的にサポートを続けることが必要です。これを危機介入といいます。そのとき誘導催眠が効果を生む場合があります。

危機介入ではクライエントさん個人ばかりでなく、なるべく、関係する人にも働きかけ、合同面接を行いながら、クライエントさんの生活圏全般に働きかけることをしていきます。そのことにより生活生産性を上げることができるからです。

しかし、このコミュニティアプローチは、危機的な状況だけに有効なのではありません。実は、催眠の効果よりも周囲に働きかける効果のほうが、ずっと大きいのです。それを実践していたのが、現代催眠、解決志向アプローチの教祖とも呼ばれていた、M.エリクソンです。

臨床心理学の基礎を築いたフロイトは、当初催眠を使っていましたがそれを捨てて自由連想法という方法へシフトしました。これは催眠が個人への改善だけを目的とし、個人を取り巻く環境への配慮を欠いているために効果がなかなか出てこなかったからだと言われています。
しかし、そればかりでなく、もっと重要なことは、誘導されて催眠に入るという構図自体、クライエントさんの力を奪うものであるということです。催眠をやるなら、瞑想か自己催眠をやるほうがいいのです。クライエントさんが自分の足で立って、自分の目でその世界を見渡すためには、他人に手を引いてもらっている限り、それはできません。

このような理由から、現在、私が催眠を使う場合は、できるだけ、クライエントさんが自己催眠を使えるように、催眠というツールを手渡すようにしています。誘導催眠に比べると自己催眠でやれる範囲は限定されますが、それでいいのです。ヘタに深いところまではやらない。意識から無意識をちょっとのぞいているくらい、その程度がちょうどいいのです。それが生きる力になっていくのです。

自己催眠を使えるようにするために、クライエントさんに実際に体験してもらわないとできません。そのために誘導催眠を実演する、催眠療法はそのくらいがちょうどいい、と思っています。

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