著書「孤独と愛着」で、ほんの少しダブルファンタジーについて書きました。副題が、ダブルファンタジーへ生きのびる人々なのに、ダブルファンタジーって何?と思われた方々も多いかと思います。
ファンタジーとは、愛着障害を持った方々が、生きるよすがにしてきたものです。母親へのファンタジーでした。「きっとお母さんは私のことをいつか助けてくれるに違いない」という誤解のことでした。この「いつか」は永遠にやってこないのに、それを秘かに心待ちにしていることでした。
このファンタジーが崩壊して、あたらに自分だけで生きて行こうと思うこと。ここに愛着障害の回復がありました。
これを数式で書くと、
(-10)+(+10)=0 —— (1)
となります。
(1)の数式で、-10は愛着のない母親であり、+10は初めて愛着を教えてくれたカウンセラーを表します。カウンセリングを通して、カウンセラーと愛着関係を作って、ようやく愛着のない世界(マイナスの世界)からリセットされて、愛着のある世界で生きようとすることを表現しています。
カウンセリングの途中までは、この方程式で進みます。+10 が +30 になることもあるでしょう。その場合は、合計が 0 でなく +20 になるので、十分にカウンセリングの効果は出ているのです。そのように回復していくのが定型の愛着障害のカウンセリングです。
しかし、一見すると、このように回復していかないようにみえる人々もいるのです。長い間カウンセリングをやっていると、母親の愛着を得られないことは十分に分かっているが、それを認めたくない自分も自覚するようになります。もう一度、母親とのファンタジーに引き戻されているかのようにも見えます。回復してもよさそうなのに、なかなかそうならない。これらの人々は、果たして、またファンタジーに引き戻されているのでしょうか。
確かにカウンセリングを始めた当初は、何度もファンタジーに引き戻されます。これらの人々は双六(すごろく)のように、またスタートへ戻っているのでしょうか。それは、そうではないのです。以下の数式(2)を見てください。
(-10) x (-10) = + 100 —— (2)
(2)の数式で、-10は愛着のない母親です。-10が二回でて来ているので、そのファンタジーがまた語られているような状態を示しています。しかし、”x” に注目してください。マイナスが2回出ると、プラスに転じるのです。+100になる。なんと、愛着が百倍になるのです。加算が乗算に転じるところがミソです。
(2)の乗算については、相談者とカウンセラーの治療の場におけるマジック、心理学的に見ると、治療空間の場によって加算から乗算の場に変換された、ということです。この場の変換については、相談者と治療者の関係性が大きな役目をはたしていると言えそうです。百倍になる、まさに幸福の方程式と言えるでしょう。
Fa=A(-) Fa x Fa = A(-) x A(-) = AA(+) —– (3)
一般化すると(3)のような連立方程式になります。Fa はファンタジー、A(-)は愛着がない関係、A(+)は愛着がある関係、x は乗算です。カウンセリング過程で乗算の場が形成されると、ファンタジーが二つ重っても、それはファンタジーとして強化されず、違うものになるのです。ダブルファンタジーは、ファンタジーでは居られないのです。