(改訂:境界性パーソナリティ障害についての最新の情報については下記リンクからダウンロードください。)
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この記事では、境界性パーソナリティ障害、AC(アダルトチルドレン)などの情緒が不安定な症状をお持ちの方を支える、身近なご家族やパートナー、友人のためのものです。どのように対応すれば良いのかを簡単に紹介します。
柔軟に、一貫した態度を取る
まず一番大切なことは、あなたの言動に一貫性を持たせることです。どんなことがあっても揺るがないこと。これは頑固ということではありません。相手を思いやって、Iメッセージを送り続けるということです。( Iメッセージについては下の③を見てください。)
また、守れないような約束は軽々しくしないことです。守れないということで一貫性が崩れます。Iメッセージは自分の気持ちを正直に言うことです。相手を変えようとすることではありません。自分を主張するということはとても難しいことです。自己愛に流れずに Iメッセージを送り続けること。これは相手を思いやる気持ちがなければできないことです。是非、ご家族、パートナーの方には練習していただきたいスキルです。
一貫した態度を取ることで、情緒不安の方は最初はとても不安がり、必ず大きな反発を向けてきます。それはあなたを試していることもあるでしょう。そこをなんとか持ちこたえ一貫した態度を取り続けていると、この人を操作することはできないということが分かり始め、自分に対する冷静な目が培(つちか)われていきます。そして周囲に対する目も養われ始めます。成長を始めるのです。そこまでどのくらいかかるかはわかりません。その人の治癒力と、その人を支える周囲の人のサポート状況によりますが、これが1番のキーポイントです。「柔軟に一貫性を保つ」です。決して、頑固にはならないでください。何度も言いますが、サポートする人は自己愛に流れないでください。
さて、この一貫した態度を取りながら、普段から気をつけておくことが3つあります。
家族が普段から気をつけておくこと、3つ。
「来たあ」と覚えておいてください。(この呼び方は私特有のものですので、他では通用しません。)
相手に情緒不安の波が襲って来たら、「来たあ」と唱えてください。そして下のことを実行します。
- ①共依存(Codependence)にならない。(共依存の「来」)
- ②タイムアウト(Time-out)をする。(タイムアウトの「た」)
- ③ Iメッセージ( I-message )を使う。( Iの「あ」)
①共依存
情緒が不安定な人は周囲の人へ依存を向けてきます。周囲の人の反応を読むのがかなり得意で、周囲の人が依存体質という弱みを持っていようものなら、それもすぐに見透かされてしまいます。そして、やるせない気持ちをぶつけて、相手をなんとか自分の思うとおりにさせようと操作的な言動を向けてきます。
情緒不安を向けられている人は、自分も情緒不安の要素があるのだと思ったほうがいいかもしれません。そして、自分の弱さを省(かえり)みながら、その向けられてくる気持ちにどっぷりと浸らないようにします。
例えば、家族や恋人は、ご自分を見捨てて相手の訴えに流されたりして、相手の思うとおりになってはいけません。ここでのふんばりが重要です。情緒不安な人は、自尊心が傷ついていることが多いのですが、周囲の人も自分の自尊心を高くもってください。
そしてがまんはしないことです。相手の人生を生きるのではなく、自分の人生を生きるようにしてください。相手の情緒の不安定さはあなたが原因ではありません。そして、あなたはカウンセラーではないので、相手のことを治すことはできない、ということを肝に銘じていましょう。
あなたが相手を治すことはできないのです。これはとても重要なことです。そしてそれを相手に返すのです。自分は何もできないのだ、と。そうやって正直に自分の気持ちを返していくことが大切です。
情緒不安な人は、いつも誰かから裏切られている気持ちを持っています。この気持ちに対処するには、自分は何もできないのだ、ということを、周囲の人がまず降参することです。自尊心を高くもちながら相手に降参しましょう。(降参とは②で言う、タイムアウトのことです。)
この態度が1つのモデルとして、いつの日が相手に通じる日が必ずやってきます。相手には、「必ず今の状況に耐えるだけの力がつくのだ、それまで頑張ろう」というメッセージを何度も何度も送ってください。根負けしないように。相手の治癒力を信じ、降参・撤退しながらメッセージを送り続けるのです。【愛ある撤退】が大切です。これは難しいかもしれませんが、ここを乗り越えることがとても重要なのです。
共依存にならない、ということは、「冷静に考えると自分は悪くない。」と思えることです。責任は自分が取る必要はないことに気がつくことです。そのために、相手の言動に乗らないことです。相手の言動に乗ってしまうと、自分のほうが悪いと思い込んでしまいます。この洗脳のようなやり方を、投影性同一視と言います。情緒不安の人が良く使うやり方です。このやり方から撤退することが肝心です。できれば、ユーモアを持って、自分を見下しながら撤退するというのが、自分の自尊心を高めておく方法でもあります。
自分を見下しながら自尊心を高く持つということは、言葉を変えて言えば、自分を笑えるということです。これはとても重要な要素です。マズローやオルポートなどの心理学者も、自己実現のための1つの要素としてあげているほどです。情緒不安な人も自分を笑えるようになると、完治したと言ってもいいでしょう。情緒不安な人を支える周囲の人は、どうか、自分を笑いものにしながら撤退してください。
②タイムアウト
タイムアウトとは、少し時間と距離をあけて頭をクールダウンすることを言います。相手が怒りなどの感情を向けてきたとき、その感情のジェットコースターに乗り込んで、2人だけの関係に「ハマる」ことは良くありません。
そこで、相手が自分に感情をぶつけてきたときに限り、別の部屋などに数時間あなたが引きこもります。彼らから離れてください。このやり方は、相手にも教えてあげてください。
気をつけていただきたいのは、いつでも引きこもっているわけではないということです。普段は、相手との親密な関係を築いてください。情緒不安の人は、好きで不安定になっているわけではないのです。このことは分かってあげていてください。「好きで」そうなっているわけではないのです。1人の愛すべき人間なのです。その人に正面から向き合い、相手に自信を与えることは、あなたの愛情を示すことでもあります。
その上で、感情の爆発があったときだけ、Iメッセージで「自分はそのようにされることは気分が悪いので、ここまま一緒にいると自分も爆発しそうなので、別の部屋に引きこもります。」と告げます。愛ある撤退をします。Iメッセージとは、私を主語にして言う方法です。Youではなくて、I を必ず主語にします。
③ Iメッセージ
Iメッセージとは、「なんでいつもお前はこうなんだ」という気持ちを伝えるときは、「私はこういうことはしてほしくない」と言うことです。
相手の態度を非難するのでなく、自分の気持ちを相手に伝えるのです。主語を、「あなたは」でなく、「私は」にするのです。そのとき相手のやっていることを客観的に観察できているとベターです。その観察したことをありのまま相手に返すのです。自分の感情をそこに乗せずに、客観的に返すのです。
これは普段から練習していないとなかなかできるものではありません。普段から自分の言動をノートし、いつも Iメッセージを使えるようにしておくことが大切です。
この「来たあ」をぜひ習慣化してください。そして、話すときはなるべく簡潔に要点をつたえる、話題を別なものにそらさない、できればユーモアを持って対応する、などに気をつけてください。
共感はOK。その先は立ち止まろう
参考にしたクリーガーの書籍には次のように共感について書かれています。
情緒が不安定になっている相手に共感することは、相手を依存させるだけです。依存は悪いものではありませんが、この依存は悪性の依存です。終わりのないむさぼり状態です。これは情緒不安な人の「自己のなさ」から来ています。自分が育ってくるまでは共感は禁物と覚えておいてください。
共感することは、スポンジのように相手の気持ちを受容することです。書籍では禁止していますが、実際は共感しない人間関係などありません。普通の人であれば、苦しんでいる人がいれば共感するのは当たり前です。ですから、共感や受容については禁止することではありません。むしろ、たくさん共感してあげてください。
問題はその先です。「なんとかしてあげたい」と思って奔走すること。これは止めてください。残念ですが、ご家族には無理と思ってください。このような受容や共感によって治療することはカウンセラーにまかせておいて、ご家族やパートナーの方々は、相手のことを分かった上で、鏡のように、相手の苦しみを持ち主に返すようにしてください。その方法は、次の「マインドフルネス」を参照ください。
自分はすまないが治せないんだ、その力はないのだ、と愛ある撤退をしてください。治すのはカウンセラーの役目です。痛みや苦しみは、それを向けてくる本人のものです。そしてそれは本人が処理できるようにならなければいけません。
マインドフルネス
ご家族の方が、鏡のように返すための方法として、次のことを習得してください。マインドフルネスというスキルです。
- ゆっくりと呼吸します。これで考える余裕ができます。この余裕は、情緒不安になっている人に伝染するという長所もあります。
- 灰色(中道)の部分を見続けます。情緒不安の人は、白か黒で判断するので、あなたは灰色の部分を主張し続けます。すべてとか、絶対とかいう言葉は忘れてください。普段から、すべてとか絶対という言葉を使わないように習慣化してください。
- 情緒不安な人の気持ちと自分の気持ちをしっかりと分けて考えるように習慣化してください。会話しているときも、しっかりと自分の気持ちを持ち続けます。そして、嘘はつかないようにします。
- 微妙な問題は先延ばしにします。微妙な問題は情緒が安定している人にも難しいものです。見捨てられ感が強い場合、強烈な反応が帰ってくることもあります。TPOを見て、今はやめておいたほうがいいなと判断されるときは、タイムアウトを優先してください。
- 何を言われても、自分の気持ちは自分で選択できることを忘れないでいてください。選択しながら愛ある撤退をします。
またマインドフルネスの瞑想は、情緒不安定な人にはぜひマスターしていただきたい技法ですが、これは境界性パーソナリティ障害やACの人を支えるご家族の方にも同様に有効な技術です。ご家族の方がこの技法を身につけると、対応の仕方も自然と変わってきます。このwebサイトの関連記事で、マインドフルネスを習得ください。
マインドフルネスが使えるようになるとこの「来たあ」が使いやすくなるだけでなく、境界性パーソナリティ障害やACの人にこの技術を教えることができるようになります。
参考図書:
(*1) 境界性人格障害=BPD-はれものにさわるような毎日をすごしている方々へ(ランディ・クリーガー)
(*2) 境界例の治療ポイント(平井孝男)