境界性パーソナリティ障害とは情緒が不安定な障害です。

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改訂 2020年4月30日:境界性パーソナリティ障害についての最新の情報については下記リンクからダウンロードください。

ダウンロード:治療のための境界性パーソナリティ障害2019 (PDF, ファイルサイズ:1MB)

境界性人格障害、境界例、境界性パーソナリティ障害、ボーダーライン、さまざまな言い方をされるこの症状の根っこは「不安定さ」と「対応不能のつらい感情」です。

アイデンティティ(自分とは何かということ)の不安定さ、気分が良くなったり落ち込んだりする不安定さ、誰かを少しの間だけ理想化したと思ったらすぐに見下げてしまう対人関係の不安定さなどが、この症状の根っこにあります。

同時に、自分ではいかんともしがたい、対応したくても対応できないくらい非常につらい感情をお持ちです。

このようになかなか自分ではコントロールできない状態が続く中で、苦しさと悩ましさの板ばさみになり、その結果、衝動的になる傾向もあります。例えば、男性では薬や酒に走り、女性では食べることに走ったりします。

アメリカのDSM-5精神疾患の分類と診断の手引きには9つの診断基準が設けられており、その5つ以上に該当すると境界性パーソナリティ障害と診断が下りますが、その診断基準を読むだけでは、この疾患の根っこがなかなか分かりづらいところがあります。

それに比べてWHOのICD-10国際疾患分類の診断基準は明快で、境界性パーソナリティ障害という用語の代わりに、「情緒不安定性パーソナリティ障害」という用語を使っています。

「情緒不安定性パーソナリティ障害とは、感情が不安定で、わずなかことで激しい怒りに駆られて乱暴し、あるいは自傷行為や自殺企図を繰り返す。衝動性と自己統制の欠如を共通の特徴とし、衝動型と境界型の2つに分けられる」と定義されています。

情緒が不安定でつらい感情に悩んでいらっしゃる方、これが境界性パーソナリティ障害の根っこです。

しかし感情面で激しい苦痛があり、薬や酒に依存して自傷行為を繰り返す人の中にも、この境界性パーソナリティ障害の診断基準を見たさない人もいます。これらの人は「多重衝動性」の障害というカテゴリーに入りますが、こういう人たちも、境界性パーソナリティ障害と同類とみなし、同じ対処がされるべきでしょう。

この情緒不安定ですが、精神科医の平井孝男は次の3つに集約されるとしています。
1. 未熟な性格
2. 行動化
3. 自己同一性の問題

「行動化」がメインの病態である、「自己同一性」がメインの病態であるという人も居ますが、上の3つを視野に入れて治療方針を立てるのが一般的でしょう。

精神科医の原田誠一は、上の「自己同一性」の問題にフォーカスし、次の3つに集約されるといいます。
(1) 自分に自信がもてない
(2) 生活の方向が定まらず資質を生かせる場が少ない
(3) 支えになる仲間が少ない

これらは「自他の場の問題」という部分で考えることができそうです。つまり(1)は自分という場の問題、(2)と(3)は他者という場の問題です。(2)に関しての他者とは、自分の外側の環境がそろっていないことであり、(3)に関しての他者とは、そのものずばりで、仲のいい他人がいないということです。

空虚に人生を生きている自己同一性の問題は、このように場の問題に転換して考えてみると治療方針も明らかになってくる場合が多いと思います。

次に境界性パーソナリティ障害と他の疾病との関係についてみてみます。

また、境界性パーソナリティ障害とされる人で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断基準を満たす人もいて、とらえ方によっては境界性パーソナリティ障害を「慢性的なPTSDでありPSTDへの対応と同じ対処方法を用いるべき」という学者も居ます。そのPTSDの原因は、虐待によるもの(身体的虐待、心理的=見捨てられ虐待、性的虐待、ネグレクト)とされますが、境界性パーソナリティ障害の人の半分以上は、そのような虐待を報告していないのも事実です。

繰(そう)病に関しても、少しの刺激に敏感に反応して怒りやすく(易怒気分)なります。この気分の異常性にはなかなか本人でも気づきにくく、なぜ怒っているのか原因があるわけなので周囲の人も、この人は怒りやすい体質なのだろう、で済ましてしまいがちです。医者でさえ、繰病を見落とす可能性があるのです。繰病と境界性パーソナリティ障害は病気の質が違いますので(繰病は薬での処方が第一選択になります)しっかりした見極めが必要です。
また、境界性パーソナリティ障害の人は、ほぼすべての人が気分の変化に悩んでいます。激しい思いがけない怒りが2,3時間続き、その後数日から数ヶ月にわたる周期的なうつがやってくるのです。この極端な揺れにあおられて見捨てられたと感じ、長いうつ状態に入ることで自殺願望が芽生えてくるのです。このようにうつ病と境界性パーソナリティ障害は併発する病態と言えるでしょう。

同様に児童に対して用いられるADHD(注意欠損多動性障害)も、「衝動性、急速な気分の変化、すぐ欲求不満になったり怒りが生じてしまう」という部分において、境界性パーソナリティ障害の人たちと共通性があります。異なる点としては、ADHDの成人は、不注意と多動についての苦悩があり、境界性パーソナリティ障害の人は、対人関係を成立させる能力に深刻な問題があることです。

DSM-5のお話をしましたが、分かりづらいと言っても世界で使われている診断基準ですので避けては通れません。その基準を別の記事で簡単にご説明しておきます。境界性パーソナリティ障害の診断基準をご覧ください。

境界性パーソナリティ障害を診断するためのテストや、その疾患を快復へ導くためのカウンセリング(マインドフルネス)についても別の記事で紹介します。

参考図書:
自傷行為とつらい感情に悩む人のために(ロレーヌ・ベル)
精神・心理症状学ハンドブック(北村俊則)
DSM-5精神疾患の分類と診断の手引(医学書院版)

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