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ソレア心理カウンセリングセンター

2018.07.13 |情緒不安定・パーソナリティ障害

魂に波乗りするボーダーラインな人々

境界性パーソナリティという言葉は、英語のBorderline personalityを翻訳したものです。



この Borderline personality という言葉は、精神分析のカーンバーグが1980年の論文で使った言葉ですが、どうしてBorderじゃなくて、Borderlineであったのか、というところにカーンバーグの暗喩があるような気がしています。

今回の話は、カーンバーグが言及していることではなく、別の哲学者からのアイデアに喚起されて私がつらつらと思ったことです。しかし、境界圏の人の生き様や苦しみ方を見ていると、そう思わざるを得ないところも感じています。
カーンバーグは、神経症圏と精神病圏の間ということで、境界という言葉を使いました。

圏と圏が交わるところ、つまり面と面が交わると線ができます。これは、2次元と2次元が交差するところは1次元であるというユークリッド幾何学の定理そのものです。そこに、彼は、Borderlineという言葉を充てました。これは自然科学の世界から見るとしごく当然の表現で、彼がそこを「線」と言ったのは正しいと思うと同時に、そこは圏ではなくて線なのだ、というところに深い意味を感じずにはいられません。

境界圏は、ある広がりをもった面ではなく、もっと凝縮された「線」であるということです。(しかし、日本語に翻訳した段階で、境界線じゃなくて境界圏になってしまいました。)神経症圏と精神病圏に対するものなら、Borderでも、Border Zone, Border Areaでもなんでもよかったと思うのですが、彼が選んだのはBorderline、線、でした。

さて、ミッシェル・セールというフランスの哲学者が居ます。彼は、「五感-混合体の哲学」(1985)の中で、皮膚と皮膚が触れ合うところに魂は生まれる、と言っています。

口をぎゅっと結んでいると結んでいるところに魂があり、目を閉じているとその閉じているところに魂があり、腕を組んでいるとその左右の腕の接するところに魂があり、そうやって魂は動作するたびに身体の上を移動していく。刺青(いれずみ)はその魂の移動を記録したものである。

なんてことを言っています。魂の生息する場所は、面と面が触れ合う場所であるということです。これを大きく捉えなおすと、何かと何かが接するところに魂は生まれているのだ、と言えそうです。これからすると、実際の皮膚の接触ばかりではなく、例えば、私は毎日クライエントさんと会って話しをしているわけですが、そこにも魂は生まれているわけです。

私は茅ヶ崎のオフィスでもカウンセリングをしています。茅ヶ崎海岸まで歩いて10分かからないので、ときどき気分転換に海を見にいきます。あのあたりは、サーフポイントなんですね。サーファーがたくさん居ます。そのサーファーを見ながら、どうしてサーファーは波に乗るのだろうと考えたりするわけです。考えてみればこれは相当変な癖です、危ないかもしれません(笑)。そこで思い当たるのが、海岸という場所は、海と陸が接する場所であるということ。かつ、その接する場所が打ち寄せてはひいていく波によって一定していない、つまり移動しているということ。これは先のセールの魂の話から推し量ると、海岸というのは、そこに魂が生まれている場所と言えないでしょうか。サーファーはその魂に魅了され、波に乗るのではないでしょうか。

Borderlineの話に戻りますが、Borderlineは、境界の線であるから、線の定義からして、何かと何かが接する場所です。そうすると、そこには必然的に、何かの魂が生まれている、ということです。
また、セール流に言うと、魂はその場所を刻々と変えるわけですので、何かと何か、その何かが時間とともに変化していくことで、Borderlineの人の、魂の意味合いもどんどんと変化していくのではないでしょうか。Borderlineの人は激しい感情の嵐に悩まされています。自傷したり自殺予告したり、理想化したりけなしたり、これらの衝動的とも見える行動化は、止まるところを知らないように見えます。しかし、これは外面的には行動化ですが、内面的には魂の、息を切らせぬほどの、猛スピードの移動の跡ではないでしょうか。

ともあれ、Borderlineの人は、そのborderという線上でご自身の魂に出会い、魂の波乗りをしている、そんなイメージが、私にはあります。Borderlineの人の行動化という現象も、魂の波乗りのひとつの現象と思えて仕方がありません。

彼ら、彼女らは、行動化するたびに、ひとつ魂の深いレベルへ降りていっているような。

はた目には、衝動につき動かされているような現象として見えますが、行動化として目には映りますが、治癒力という霊性が覚醒する領域へ接近しているときなのではないかと、思います。このように思う私自身、Borderlineの人が起こす行動化(転移)へ逆転移を起こしているわけですが、この逆転移は「ただならぬもの」のようにも思えるのです。

つまり、カウンセリングという場が、彼ら、彼女らの治癒力(霊性)の恩恵に預かる瞬間のように思えるのです。クライエントさんの行動化の深みに降りて行っている・・・そのように思える瞬間は、治療がかなり効果的に進んでいると感じます。
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