愛着障害の人は複雑性PTSDだということですが、ラジオでの複雑性PTSDの説明を聞くと大きなトラウマと小さな無数のトラウマとありました。
愛着不全でもトラウマや日々小さなトラウマもありそうな気がするのですが、トラウマとゆうより傷というレベルということなのでしょうか?
トラウマという言葉が日常的に使われてしまっているので、区別がつきにくい印象があります。なんでもトラウマにしてしまいがちになります。これはそれだけ「ストレスによる傷が大きなものである」という認識が一般化していることなので、良い傾向と捉えることができます。
しかし、臨床的には正確に使う必要があります。ここで複雑性PTSDのトラウマがどういうものであるかをチェックしておきます。ソレアの記事を参照ください。
▶複雑性PTSDと愛着障害(虐待)は同じですか?|ほぼ同じですが原因が違うことがあります
複雑性PTSDのトラウマは次の7つで定義されています。
ハーマンの複雑性PTSDには、次の7つの困難さ(変化)があって、それらの変化は子どもが虐待環境を生きのびるための【適応・順応した形態】であるとしています。
①全体主義的な支配下に長期間服従した生活史があること。例えば、人質、戦時捕虜、強制収容所生存者、一部の宗教カルトの生存者、DV、児童への性的虐待、身体的虐待など。
②感情が制御できなくなる。例えば、不機嫌で、自殺のことを常に考えていて、自傷を繰り返す。爆発的な(あるいは極めて抑制された)憤怒や性衝動がある。
③意識が変化する。例えば、解離性健忘、フラッシュバック、解離エピソード、離人感がある。
④自己感覚が変化する。例えば、孤立無援感や主体性のマヒ、罪業や自己非難、他者とは全く違った人間であるという感覚(分かってくれる人がいない、自分は人間ではない)。
⑤加害者への思考が変化する。例えば、加害者を理想化したり、感謝したり、全能であると思い込む。(ストックホルム症候群)
⑥他者との感覚が変化する。例えば、親密な人間関係を築こうとするとPTSDを再体験し、対人関係において極端に不安定になる。孤立・ひきこもりになる。親密な関係を切り捨て、不信感の中に生きる。
⑦意味体系が変化する。例えば、信仰や希望を喪失し、絶望的感覚が生活の中心になる。
これらのトラウマを継続的に感じ続けていると複雑性PTSDになります。そしてこれは、愛着障害とほぼ近い概念になります。
愛着不全の方の場合は、②、④の一部が含まれることもありますが、複雑性PTSDのような継続性はありません。ですから上の①~⑦のトラウマの概念からは外れます。
愛着不全の場合は、傷を負わされても、こころのベースには親の愛情を強く希求しようとする感覚があります。これは上のトラウマとは別物と考えたほうがよさそうです。一般的な言語ではトラウマと言われそうですが。いちおうわたしは便宜的に「スモール・トラウマ」と呼んでいます。本当はトラウマという言葉ではなくもっと適切な言葉を使うべきと思っていますが、いまのところ見当たりません。誰か、こういうネーミングがいいのでは?という案がありましたら、この質問のコメント欄、あるいは直メール(info@solea.me)で教えてください。
ときどき愛情を感じつつ養育者との関係を修復しようとする、これが愛着不全の方の行動です。これはファンタジーではなく、愛情の片りんがそこに実際に存在していることを示しています。これが親への執着につながっていくところに、愛着不全の方の無間地獄のような苦しさがあります。
■継続性スモール・トラウマ
こんな用語はないのですが、複雑性PTSDの場合のスモール・トラウマの呼び方を変えたほうがいいのかもしれません。そんなことをラジオで話しました。候補としては「継続性スモール・トラウマ」です。そうなると愛着不全の場合は、スモール・トラウマと呼んでもいいのかもしれません。みなさんのご意見をお待ちしております。