【高齢者の発達障害】実は認知症との誤診も?家族からの聴き取り必須!

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厚生労働省の新オレンジプラン(*1)によると、2025年には約700万人(高齢者の5人に1人)が認知症になると予測されています。

・認知症のテスト結果は問題ないのだが、最近忘れることが増えているようだ。
・親が認知症だが、もともと昔からおかしなところがあった。

そんな心配をお持ちのあなたに、何かのヒントになればと思い、記事にしました。この記事のポイントは、

  • 高学歴の場合、認知症スクリーニング検査で高得点でも認知症の場合がある。
  • 認知症だけではなく、発達障害がもともとあった。

■認知症と学歴

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認知症診断にはまず学歴情報が必要

超高齢社会に入った日本にとって、認知症は対応を迫られている精神疾患です。認知症は予防はできません。DNAの問題ですので、発症を遅らせることはできても、発症を阻止することはできません。そのようにプログラムされている人は、いつかは認知症を発症します。

ここでは、認知症をスクリーニングするテストについて解説します。特に、その人の成育歴によって、診断基準を変えなければいけない、という現場からの重要な声もお伝えします。このへんは書籍で勉強しているだけでは見えてこないところです。次のようなツイートをしています。

認知症と高齢者の発達障害の切り分け:HDS-Rのカットオフポイントは20/21です。公認心理師試験では正解ですが、実際はこの数値はあてにならない。高学歴の人は25でも認知症、低学歴の人は20でも正常域の可能性あり。だから学歴に左右されない【時計描画テスト】CDTも同時に施行しましょう。(改編)

◇HDS-RとMMSE

認知症を判別するために行われる心理検査で、もっとも使われているのが、HDS-R(改訂版長谷川式簡易知能評価スケール)とMMSEです。以前は、HDS-Rが多かったですが、最近はMMSEが使われる傾向にあります。一部の先生は、MMSEの質問が老人をバカにしていると感じられ、診察拒否につながるので、HDS-Rを使っている人もいます。

どこがバカにしているのかというと、次の設問でひっかかる人が多いようです。

・時計や鉛筆を見せながら「これは何ですか?」と聞いたり
・「みんなで力をあわせて綱を引きます。」という文章を繰り返させたり、
・「目を閉じなさい」という指示を出して、その行動をさせたりする

これは高齢者にとってみれば、バカにしていると思いますよね。HDS-Rには、そのような質問はないので、そっちの方が「高齢者にやさしい」と言えるのでしょうか。

◇カットオフポイント

次に重要なところがカットオフポイントです。これは、認知症か、そうではないか、その判断を下す点数を意味します。HDS-RもMMSEも、30点満点ですが、カットオフポイントは異なります。

  • HDS-R:20点以下は認知症の疑いあり
  • MMSE:23点以下は認知症の疑いあり

この配点でざっくりと判断をするわけです。

HDS-RもMMSEも、言語性の検査です。正確にいうと、MMSEは最後の描画問題が動作性の検査ですが、ほぼ言語性です。だから、記憶術など優れている人は、無意識にそれを使って記憶するので、別の回路で正解を出してくる可能性があります。

  • 言語性:言葉を扱う能力
  • 動作性:作業を行うための能力

高学歴の人は、社会でも責任あるポジションにつくことが多いので、色々な問題に対処する場面の連続だったでしょう。そのために、記憶したり判断したりすることが習慣づけられています。

この「習慣」が別の回路を形成します。考えなくても、反射的に正解を導くのです。分かりやすいのは、いまの年数とか住まいを答えさせたするところ。【高学歴の人は、習慣的に、反射的に情報をアウトプット】します。新聞を読むことを欠かさなかったり、知識が豊富です。すると、今日いつなのか、反射的にすぐ答えられます。

そのため認知症であっても、得点が高くなる傾向があるのです。

◇時計描画テスト(Clock Drawing Test)

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時計描画テストは必須!

このテストのいいところは、豊富な知識が必要ないというところです。言語性でなく、動作性のテストということです。つまり、学歴に左右されずに認知症を発見できる可能性が高まります。

名古屋フォレストクリニック:認知症専門医の河野和彦先生のやり方が一番わかりやすいので、リンクを張っておきます。準備、やり方、採点方法など詳しく載っています。勘どころは、【10時10分】を描いてもらうことです。

▼コウノメソッド式CDT

■高齢者の発達障害について

子どもの発達障害については、知見もたまってきて、最近は「大人の発達障害」についてテレビでも取り上げられるようになってきました。しかし、高齢者の発達障害(*2)についての研究は、これからです。対応できる医療関係者もかなり限定されます。すでに超高齢社会へ突入している日本にとっては、急務でしょう。次のようなツイートをしています。

認知症専門医は発達障害が分からないので、MCI(軽度認知障害)の診断の半分くらいは発達障害の可能性あり。
統計によると、認知症患者の15%以上に発達障害が併存している。そうすると介護する家族にも発達障害者のいる可能性が高くなる。
つまり、家系全体に対しての問診が必要になる。
施設にいる老人でHDS-Rが25以上の場合、アスペルガー症候群の可能性あり。(改編)

家族に発達障害の人がいるとすると、その人が認知症の介護にどのように関わるのか、あるいは関わらせないのか、そういう判断も必要になってきます。発達障害の特性に合わせた、認知症介護参加・不参加への道筋をつけてあげることも必要です。このへんは心理士がケースワークしていくことになるでしょう。医師との連携が大切になります。

時計描画テストCDTで、
・スピード感ある数字
・勝手に針を描く
・円が結びつかない
・描き損じが多い
・0を描く
などがある場合はADHDを疑う。円を描かない場合はピック病に多くみられる。ピックとADHDは鑑別が難しいので要注意。レビー小体DLBの47%はADHDとの報告あり。

河野先生は、「レビー小体型認知症とADHDは生物学的に近い印象がある」といいます。

認知症の問診で、次が該当した場合、発達障害(ADHD)の可能性大。追加で時計描画テストCDTを行って確定すること。
・整理整頓できない
・捨てられない
・多弁
・嫌なことは後回しにする
・好きな人と嫌いな人をはっきりと分ける
・指示が入らない
・段取りがつかない
・車の運転で、側面をこする
・病院へ保険証を忘れる
認知症ではないので、抗認知症薬の処方はNG。(改編)

認知症の問診で、次が該当する場合、発達障害(アスペルガー症候群)の可能性大。
・こだわり強い
・怒りっぽい
・聴覚過敏
・友だち少ない
・成績良かった
・CTで海馬委縮度0~0.5+
認知症ではないので、抗認知症薬の処方はNG。コウノメソッドの河野先生は、ウィンタミンを処方して改善しています。

河野先生は、下記を行ったあとで情報をまとめて、認知症か発達障害かを見分けているそうです。心理士の方、参考にしてください。

  • 患者さんの成育歴、家族歴含めた詳細な問診
  • HDS-R
  • CDT
  • ビルディングテスト・ナゴヤ(*3)
  • 薬・サプリの効き方

この記事は下記論文にあったものを参考にしています。手に入りにくいときは、認知症治療研究会 info@jsdt.org までお尋ねください。河野先生は認知症臨床では有名で、発達障害を伴った患者もケアされています。

これらのテスト群の特徴は、ビルディングテスト・ナゴヤの積み木ができる人はQOL(生活力)が高いとみなしてよいそうです。施設に入らなくても自活してやっていける力を持っていると判断できるそうです。

▼軽度認知障害(MCI)診察の際の注意点, 河野和彦, 認知症治療研究会会誌 第6巻1号, 2020

■まとめ

Bright candle flames in Bengaluru, Karnataka, India
高齢者を救うにも、正しい見立てが必要。

認知症のスクリーニングテストでは学歴も考慮します。高学歴の人は高得点でも認知症でないとはいいきれないことを知っておくことです。

認知症患者の15%以上に発達障害が併存しています。つまり、介護する家族にも発達障害の人がいる可能性が高いです。

時計描画テストで、ADHDやアスペルガー症候群の判別が可能です。

認知症、特にMCI(軽度認知障害)の判別は難しいところです。この記事によって、認知症の見立て精度が上がる研修受講への行動につながれば幸いです。

Reference:

(1)厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン), 2015 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf
(2)河野和彦: 軽度認知障害(MCI)診察の際の注意点, 認知症治療研究会会誌, 2020 第6巻1号
(*3)河野和彦: ビルディングブロックテスト・ナゴヤ https://kaigo.homes.co.jp/tayorini/developmentaldisorder/002/

親の発達障害が疑われるときは、ソレア心理カウンセリングセンターへ

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