解離性同一性障害の回復【ミスチルの掌】ひとつにならなくていい

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多重人格という症状は、小説やドラマの題材になったり、興味が尽きないですが、実際にそういう人にお会いすると、カウンセラーは焦る人が多いのではないでしょうか。それによって、特別なことをしようとすると、その瞬間、治療空間は壊れます。余計なことをせずいつものカウンセリングをキープすることです。それを続けながら、色々と論文に当たるのが臨床家としての腕を上げることになります。論文というのは先人の経験のエッセンスですから凄いものです。書籍よりも読みにくいですが、書籍では得られないものがギューッと濃縮されています。

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ミスチルの掌~ひとつにならなくていいよ

Mr. Children の掌(2003年)という歌の中に、

ひとつにならなくていいよ 
認め合うことができるから 
それで素晴らしい

という歌詞があります。

この「ひとつにならなくていいよ」は、Dissociative Identity Disorder(解離性同一性障害)を治療する人々は忘れてはならないメッセージです。統合する必要はないということです。

解離性同一性障害の治療

解離性同一性障害は英語表記でDID (Dissociative Identity Disorder) です。自分の中に別の人が居る感覚です。一般的には多重人格とも言います。DIDは解離性障害の中でも最も重篤な症状です。

さて、解離とは、次の2つに分かれます。

(1) 離隔 (Detachment)と
(2) 区画化 (Compartmentalization)です。

離隔は空間に関しての変容です。主に意識の変容として体験されるもので、ある程度コントロールは可能です。その離隔症状がひどくなると区画化へ移行します。こちらは時間に関しての変容として体験されるもので、コントロール不能です。

別の動画で説明したシュタインバーグの区分でみると、離人 (De-personalization)・疎隔 (De-realization) は離隔に、健忘や同一性混乱、同一性変容は区画化に入ります。解離性同一性障害は同一性変容なので区画化に入ります。

昔は治療として、各人格を統合していく方法が取られていました。催眠などを使って統合が行われていましたが、なかなかうまくいかず、今は、各人格を否定せずに傾聴・受容していく方法が取られています。

考えてみれば、統合するのはとても乱暴な方法のように思います。健常者でも自分の中に色んな性格があります。DIDの人は、その色んな性格が強調されてあたかも別人格をもったように出現しているだけにすぎないわけですので、それらを統合して一つにすること自体無理があるのです。統合というのは、どの人格が消えて、どの人格が生き残るというような操作になりますので、消される人格にとっては、たまったものではないでしょう。

色んな性格が強調されるので、その人ではないような人格が出てきて、実際に言葉遣いや服装や対人関係の作り方などがすっかり変わってしまうこともあります。ですから、全然怒らなかった人が、急に乱暴な言葉使いをして烈火のごとく怒ってくるなんてことも起こります。第三者にしたら、びっくりです。

それぞれの人格は必要な人格であって、その人の身代わりの自分だったりするので、それぞれの人格の言い分をちゃんと傾聴してあげること。なくなって良い自分なんてないのです。みんな必要なのです。怒っている自分の話を十分聴いてもらえると、満足してしばらく出てこないかもしれません。その自分は消えてはいないけれど、出る必要がなくなるわけです。

カウンセラーは、そのような相談者の奇妙な言動に恐れないことです。しっかりとこころを込めて傾聴してあげること。相談者の苦悩、なぜ別人格として出さないといけなかったのか、そこに思いを馳せて寄り添ってあげることです。

私も最初に臨床現場で出会ったときはビビりましたが、平静を装ってカウンセリングしていました。ビビることなどなかったのですが、本やドラマで分かっていたはずですが、やはり衝撃の体験でしたから。カウンセリングの途中で人格交代してしまうわけですので。解離性同一性障害のスーパービジョンしてくれる先生も見つからず、出版されている本だけでなく国内外の膨大な研究論文を読みました。今から思うとあの必死に向き合っていた体験が今の私のベースになったように思います。

解離性同一性障害の治療のポイントは、解離できなくなる地点が来るということです。別人格と交代できなくなるわけなので、相談者にとってはとてもつらい時期がやってくることになります。ここを、何か月か何年か、がっしりと支えていくことがカウンセラーに求められます。

その人が生活上出している人格を主人格、隠して生きてきた人格を副人格といいますが、主人格は一人ですが、副人格は何人もいるのが一般的です。ダニエルキイスの著作で有名になったビリーミリガンなどは24人格あったと言われていますが、驚くには価しません。まぁ、普通の人でもそれくらいの多彩な性格を持っているということです。人間のこころの奥深さゆえのことです。

余談ですが、ビリーミリガンについてはレオナルド・デカプリオが映画をプロデュースして主演する計画もあるようです。

DIDで出現する人格は何人もあります。主人格は副人格が出ているとき副人格のことが分からないかと言うとそうでもなく、遠くからみている場合もあるのです。主人格と副人格がクリアに入れ替っているようにみえても、主人格は副人格のことを観察していることもあるのです。

私が臨床現場で最初に出会った人は、そのような人格出現をさせる方でした。副人格のことを覚えているときもあるし、覚えていないときもある。そんな感じでした。

参考図書:柴山雅俊 解離の構造

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