向精神薬にはそれはもう色んな薬があります。十分に管理が必要なものから、内科などで処方できるものまであります。かつてはデパスなどは、どこでも処方されていました。
デパスとは
デパスは、ベンゾジアゼピン系の類似物とされる、チエノジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬です。日常的にかつては様々な領域で処方されていましたが、最近は管理が求められている薬物です。依存性が強く安易な処方は避けられるようになりました。処方しても1か月をメドに減らしていく処方が推奨されているようです。
半減期は6時間で短時間作用型の睡眠薬です。一日量0.5~3mg。
注意点はベンゾジアゼピンと同等です。依存に注意を要する薬物で、一度に処方できる量は30日分までに制限されています。急に中断すると、不安や不眠が急激に生じて、強い離脱症状が現れます。離脱症状とは、イライラ、動機、めまい、嘔吐などの副作用のことです。減量や中止は進めるべきで、量を減らしたり、長時間作用型に変えたりします。
薬を止めると離脱症状がでることを、身体依存といいますが、身体依存を引き起こす物質として、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、アルコール、ベンゾジアゼピン、バルビツールなどがあります。コカイン、大麻、覚せい剤は身体依存はありません。それを急にやめても後遺症は出ませんが、それらは強い精神依存を引き起こし、それらがほしくて仕方なくなります。ベンゾジアゼピンにも若干の精神依存があります。長期投与で効果が減少する、つまり薬の量がどんどん増えることを耐性といいますが、ベンゾジアゼピンは若干の耐性もあります。(精神診療プラチナマニュアル・松崎朝樹より)(*1)
母の形見
愛着を求めてやまない人々がいます。愛着障害や愛着不全に陥っている人々です。母親という存在を経験したことがないか、あるいはファンタジーとして経験しているか、あるいは母親の存在が薄かった人々です。彼らは、いつも母親のような存在を感じると、そちらのほうへ引き寄せられます。
そんな人々は、母親がつかっていたものへの執着も強いことがあります。母親が病弱で、たくさんの薬を使っていた。これは、薬へ愛着を向ける人のお話です。その人にとって、時々消え入りそうな気持ちになるとき、デパスが一番効くといいます。
母がくれた唯一の救いの手がデパスでした。デパスは母の形見みたいなものです。母がテーブルにザァーとデパスをばらまくので、それを一粒、二粒いただくのです。そうすると死にたいという気分が遠ざかります。
「母の薬」ということでその人の不安が納まる。デパスが効いているわけではないのでしょう。母への強い思いが効いているのでしょう。それはファンタジーと言ってしまえばそれまでですが、その人にとっては何か生命線のようなもので、そういうものであれば、それは飲み続けるのもありなのでしょう。身体依存、耐性は心配ですが、自殺を食い止めるほうが重要です。
その人は続けます。「精神科医と話していて、分かってほしいとき、愛情を求めるときに私は、薬をくれという表現しかできないのです。」精神科医には決して言えないけれど、そのことは精神科医も分かっているのです。分かっていることをその人は知っているので、そこへ通い続けられるのです。それは精神科医の処方する薬と母親というイメージが結びついているわけですが、それはその人が窮地を乗り越える方法なのでしょう。
デパスを止めようという話ではなく、回復のためにはデパスへの依存が必要な局面もあるのです。デパスはその人にとっては薬ではなく、【甘え】なのかもしれません。それが欲しいのです。「お母さん」を感じたいのです。
デパスではなく、一緒に処方されている抗うつ薬の話になりました。「2剤処方されているので、1つを変えてもらいました。別に変えてもらわなくてもよかったのですが、強い薬に変えてもらいました。それを私が飲むことはないのですけどね。」その薬は致死量が少ない薬です。つまり本気で大量に飲んだら死ぬ薬です。
そこでセラピストは意味もない質問をします。「胃腸薬ではダメですか。」
「胃腸薬ではダメで、特別な薬でなくてはダメなんですね。こちらから頼んで少し危険な薬を処方してもらいました。」
その人は薬のプロなので、薬のことは精神科医よりも詳しいのです。そして、その人の要求を呑んで、精神科医はその薬を処方します。そういう薬を処方してくれる精神科医に甘えているのでしょうが、その人にはそういう甘えが必要なのです。
そして、そのように処方する精神科医の肝も座っている。なかなか悪くない関係性でしょう。
Reference
(*1)松崎朝樹: 精神診療プラチナマニュアル, メディカルサイエンスインターナショナル, 2018
愛着に関しての相談は、ソレア心理カウンセリングセンターへ