【ユングの元型心理学】カウンセリングルームの向こうヒトとの交わり

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分析心理学のユングは、フロイトの無意識という考えを推し進め、個人的無意識のもっと下のほうに、集合的無意識(普遍的無意識)があるのではないかと考えました。

ある統合失調症の患者の治療をしていたときに彼の妄想について思いをめぐらせていたときのことでした。

この普遍的な無意識を、ユングは元型を呼びました。元型はユング心理学の中ではもっとも重要な概念です。人の無意識は、個人のものだけでなく、ある集団や民族や人類とつながっていると考えたのです。そのつながり方が色々あって、それらを元型と呼びました。

物理学でいうならば(いつも物理の話ですみません)、力というのは4つあって、重力、電磁気力、強い力、弱い力。これと似たように心理学の力動の中にも、いくつかの力があって、それに一つ一つ呼び名を付けたのです。そのように、私としては、元型というものを捉えています。

どんな元型を想定したのでしょうか。影、太母(great mother)、老賢者(Old wise man)、そして自己(self)などです。彼は自己(self)をタマシイの中心に置きました。

物理の4つの力から見ると、自己とは重力のようなものと言えるかもしれません。元型と物理学をミックスして話す人はあまりいないかもしれませんが、私としては、この説明が一番しっくりとくるのです。

そのような元型と交流していくことが、そして最終的に自己という元型に集約されていくことが、治癒ということになるのかもしれません。このことをユングは「個性化」と呼びました。

前回は、カウンセラーの背後には何があるのか、カウンセリングルームとはいったい何なのか、という話をしました。相談者の人々は、カウンセラーの背後のモノたちと話しているのだ、という話でした。これは、ユング的にみると、元型と対話していることに他ならないと思います。

ある人の言葉です。

カウンセラーから無条件に受け入れられて、幼児がやっと自転車に乗れるようになった気分です。そこ(カウンセリングルーム)には、大きく広がる海があって、そこに溶けたのです。自分個人でありながら全体の一つになりました。そしてタマシイは安心したのです。

これは、カウンセリングルームの向こうにつながったということで、相談者の元型が幾千万の元型とコンタクトを取った証なのです。元型は目にみえない力です。物理量のように計測できるものではありません。ただ、相談者の方の行動を見ていると、元型のようなものにコンタクトを取るようになってくると、明らかに以前とは違ってきています。

行動の変化でエビデンス化はできるかもしれませんが、それでは豊かなものがこぼれ落ちてしまいます。この方のナラティブ(物語)な変容に耳を傾けていると、カウンセリングルームのつながっている先は、やはり約束の地であるとしか言いようがないのです。

自分はそのような安心感にはまだまだ程遠いと落胆される方もいるかもしれませんが、この元型との接触は何時起きるかは予測できません。ある人は夢でそれと接触することもあるし、ある人は街かどで接触することもあるでしょう。ユングは夢分析という手法を用いていますが、それも元型の痕跡を見るためなのです。どうぞ貴方の豊かな元型と何度でも出会ってください。

ユング派のヒルマンは、元型心理学というものを始めたくらい、この元型の力学は興味深いものなのです。ヒルマンの「夢はよみの国から」はなかなか良い本ですが、絶版になっています。

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