お悩み相談室

ソレア心理カウンセリングセンター

2018.07.13 |うつ・不安

うつ病が治るということ

21世紀になってから特に時間の流れが早くなっています。


兆候は1990年代からありました。インターネット社会です。効率優先が前面に出てきました。社会を見渡すと、「時間を無駄にするな」という人が大勢います。でも気にすることはありません。1年は6か月くらいというスタンスで、冬場はしっかり冬眠してぬくぬくと春になる夢を垣間見ていればいいのです。

これと似たようなことを以前書いていますね。ほんとうに私は脱力系が好きなのかもしれません。こころカフェにある「1年の計は4月にあり。10年の夢は元旦にあり。」です。


これは一つの考え方です。これを押し付けるわけではありませんが、そいう考えが社会の中ではメインストリームではないので、こういう記事で、そういう考え方もあるよと強調するわけです。別の考えを示すわけです。これとは違う考え方、いわゆるメインストリームの考え方は、会社などではお馴染みの「時間を無駄にしてはいけません。きちんとスケジュール立てて達成することで自己実現をしていきましょう。」というものです。

この「時間をしっかり管理していこう」というメインストリームの考え方を[A]、私のような、「1年の計は4月にあり」なんていうルーズな考え方を[B]とします。例えば企業などでうつ病になるような人は[A]に支配される生き方を選んできて、もう頑張れないというところまできてうつ病を発症します。当面のうつ病治療は、[B]も大事だよね、というところを再発見していくことになります。

それをてっとり早くやろうとするのが認知行動療法です。[A]が頭に浮かんできたら、いやそうじゃない[B]もあるよね、というふうに思考を変えることを、自己暗示していくのです。ときには行動を変えることもやります。電車へ飛び乗りそうになる自分のスピードを緩めて一本電車を遅らせるようなことです。[A]へ動きそうな行動を、強引に、[B]へ変更させるのです。そうやっていくうちに、[B]を定着させていく、これが認知行動療法です。

しかしここには重大な落とし穴があります。考え方を変えようとすることで、「[A]でやっぱりやりたいよ、[B]は私にはムリ、そんなことしたら社会的信用ガタ落ちだよ」という自分にフタをしてしまうということです。[A]にフタをすれば[B]の自分は楽ですが、[A]をやっていた自分が今度は苦しくなるのです。[A]という考えを否定して[B]に変更させるというのが認知行動療法ですが、実際は[A]というものはなくならないので、否定されて苦しくなってしまうのです。ここに認知行動療法の落とし穴があるのです。

認知行動療法については、カウンセリングが終わりそうなときに「まとめ的」に使えばいいと、私が言っているのは、このへんのことがあるからなのです。

うつ病の回復期などに自殺衝動が出てくる場合があるのは、この[A]と[B]の2つの考え方が激しく葛藤を起こしているからなのです。回復期には、これまでの企業戦士だった自分[A]ではなく、なんとかルーズにやれる自分[B]も見えてきます。心身が楽になってくることも実感します。身体が動くようになってきます。そうこうして身体が動き出したとき、頭痛や心身の重たさを感じて身体が動かなくなることがあります。あぁ、うつ病はまだ治ってなかったんだなと、落胆して、いったいいつになると前のようになれるのか、もう希望はない、そのようにして自殺衝動が高まります。

ここで注意してほしいのは、「前のように」という気持ちです。前のようにとは、[A]のように、なのです。せっかく[B]というものを手に入れそうなのに[A]へ戻ろうとする。この瞬間[B]が出て来て、身体を動かなくさせるのです。それやっちゃだめだよという心身からのメッセージです。身体が動き出しているときに身体が動かなくなることは、実は回復途上では必要なことなのです。

しかし実際には「前のように」という気持ちも大切にしたい。なぜなら[A]のような自分に戻らないと、これまでの関係が切れてしまう、離婚の危機もあるかもしれない、自分は落ちこぼれと烙印を押されてしまう、それは怖い。この気持ちも自然なのです。ここで[A]と[B]が激しく葛藤を起こします。この[A]も[B]も大事にしながら、その葛藤を超えていくことが、うつ病の最終治癒になります。[A]も[B]も包含したもの、それを自分の中に見つけていくこと、それが治療目標です。うつ病を例にとりましたが、これはカウンセリングの基本であり、カウンセリングで精神的な悩みがどうして治癒するかの回答でもあるのです。

哲学者のヘーゲルはこのことを「弁証法」と名付けています。似たようなものは紀元前の道教の中もありますし、日本の禅の中にも、オキナワのユタ文化の中にもあります。新しい考え方でもなんでもなく、昔からのものなんですね。



うつ病の回復途上で身体が動かなくなることについては、ある相談者の人の夢が参考になります。この人はある企業の管理職の方で、高校を出てから20年以上ずっと抑うつ感に悩まされていて、うつ病診断で2回目の3か月間の職場休暇に入ろうかとしているときに来談されました。この人の抑うつ感は虐待によるものだったのですが、その治療が終わりにさしかったときに、ある夢を見ます。ちょうど職場復帰の数週間前です。

「プールのコースのようにまっすぐな河を泳いでいる。周りには会社の同僚たちも泳いでいる。目の先に河がずっと続いていて、どこまで泳げば終わるのかは分からない。自分は水泳は得意なので、泳ぐことにストレスはないはずなのに、腕を回そうとすると腕が動かない。必死で動かそうとするが動かない。そうこうしているうちに、同僚たちは私の前方を泳いでどんどんと私は遅れていってしまう。」

この夢は、[A]の自分に戻ろうとする自分を、[B]の自分が止めているのです。古い自分へ戻ろうとする自分を、新しい自分が止めているのです。そんなことをやったらだめだよ、というメッセージを送っている。回復しかけると、どうしても前の自分へ戻ろうとする力が働きます。前の自分だったためにうつ病になったのに、またそれに戻ろうとする。それを新しい自分が止めるから、身体が重くなって動けなくなる。この人の夢は、それをやっちゃだめだよというメッセージだったのです。

ここでうつ病治療の一番のポイントですが、

この新しい自分にしたがって、古い自分を横へ置いておくこと。しかし古い自分を捨てられない自分もいて、そのジレンマを抱えたまま生きていくことができるようになること。

つまり新しい自分も古い自分も否定せずにやっていけるようになることです。これは苦しいように感じる人もいるかもしれませんが、新しい自分が登場している部分で余裕ができますので、苦しくはありません。むしろ楽に生活できるようになります。
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