心理療法とストレス障害

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読者の方から質問を受けました。2つ紹介します。

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セラピストやカウンセラーがお持ちの心理療法もしくは技法について三つほどご質問がございます。セラピストやカウンセラーの方々の中には、多くの心理療法や技法をお持ちの先生がいらっしゃいます。

ご質問の一つ目。
心理療法と技法との違い。

ご質問の二つ目。
多くの心理療法や技法をマスターされたセラピストやカウンセラーは、そうではないセラピストやカウンセラーとは違うのでしょうか?

ご質問の三つ目。
アプローチのちがう心理療法や技法を複数得ることで、クライアントの関わりに違いやクライアント自身の変容にも影響があるのでしょうか?また、対象的な心理療法を持ちえることでセラピストやカウンセラーは、違和感を感じないのでしょうか?

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回答については、やり取りしながら確認作業をしているわけではないので、質問の意図を捉えきれていないかもしれませんが、ご容赦を。

(1)心理療法と技法との違い。

質問された方は、心理療法と技法を違うものと捉えられています。私はこれは同じものと思っていますが、私がカウンセリングで技法を使う場合に限定してお話ししようと思います。まずは、傾聴・受容というカウンセリングがベースにあります。この基本技法ともいえる傾聴・受容をしていく中で、必要があるときにだけ、こちら側が意識的に質問する場合があります。これを「介入」といいます。この介入技法として、さまざまな心理療法があります。認知の変容を促す介入、感情の発散を狙う介入、もっと身体的な言語にアプローチする介入、さまざまな介入は、それを使うに適した場面で選択されるべきでしょう。そのため、治療者は複数の介入技法(心理療法)を持っているのがいいかもしれません。

ただ、世間では、認知行動療法をやりますとか、精神分析的アプローチをしますとか、介入技法に重きを置いてPRする傾向があります。そのほうが訴える力があるからだと思いますが、その技法を使うにしても、それを使うに適した時期と適した技法があるのです。認知行動療法は最初からは使えません。そのようなことを考えながらカウンセリングは進んでいきます。

(2)多くの心理療法や技法をマスターされたセラピストやカウンセラーは、そうではないセラピストやカウンセラーとは違うのでしょうか?

上で説明したように、介入技法をたくさんもっていたとしても、それをいつ使うか、どのように使うかの判断ができなければ宝の持ち腐れになりますし、また使い方を誤る恐れがあります。介入する時期の判断も必要です。そのようなことを適切に行うためには、カウンセリングについて学ばなければならないでしょう。これができていないカウンセラーが意外と多いのです。技法だけ身に着けても、傾聴や受容という一番肝心なところができないと、心理療法を行ったとしても効果はありません。

(3-1)アプローチのちがう心理療法や技法を複数得ることで、クライアントの関わりに違いやクライアント自身の変容にも影響があるのでしょうか?

クライアントの変容に影響はないと思います。介入技法がたった一つであったとしても、それが適切な時期に適切な形で使うことができれば、変容する下地のあるクライアントならば確実に変容します。

ただ下地をもっていないクライアントは変容しません。その見極めというか、見立ても大事です。変容しない人に洞察を求めることばかりをやっても、クライアントはツライだけですし、治療者側も疲れるだけで、両者にとっていい結果はもたらされません。複数の心理療法をもつことよりも、適切な見立てができることが最も重要です。

(3-2)また、対象的な心理療法を持ちえることでセラピストやカウンセラーは、違和感を感じないのでしょうか?

違和感は感じません。なぜなら、それを使う時期などが違うからです。対照的と言えるかどうかは分かりませんが、私の場合を申し上げると、最初から最後までカウンセリングを実践していく途中で、マインドフルネス技法、アートセラピー、箱庭、催眠療法、認知行動療法などを使います。時期を考えると、マインドフルネスは随時、アートセラピーや箱庭や催眠は中盤で数回、認知行動は終盤で少し、ざっとそのような使い方をしています。

上は洞察を得るようなカウンセリングのときに使いますが、洞察が目的ではないときは、カウンセリングをベースにしながら認知行動的なアプローチが主体となります。

駆けあしでお答えしましたが、これらのご質問に丁寧に答えていくと、本が一冊かけるくらいの回答になってしまいます。また折にふれて話すことがあるかとは思います。

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2つ目の質問です。

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3/18の読売新聞の人生案内を見て、とても心が、ざわついてほっとけない気持ちになりました。パートの主婦がアルバイトの学生にISに二番目に殺された方の写真をいきなり見せられ、ショックで生活に支障が出てしまいそう・・というものでした。
ASD(急性ストレス障害)でしたっけ?いかにもそんな感じがしました。
それに対する解答が、二番目に殺された方なんて言い方をやめて後藤健二さんの生き方や思いをしっかり調べて、怒りを持ち、彼の死を無駄にしないような行動をしましょう!と強く書かれていました。
私は直感でとんでもない!と思いました。

相談者がなぜ「二番目に殺された方」としか書けなかったのか?私には分かる気がして、もし私と同じなら、今、その人のことを調べたりしたら吐き気が止まらなくなりそうです。
読売新聞に抗議したいけれど、そうすることで私自身もダメージを受けそうで弱腰になりますが、なぜこの相談の解答者に海原純子さんをもって来ないのか?くらいは抗議します。
あの事件では、酷い結果に傷ついた人、この相談者のように不可抗力で傷を深くした人も多いと思います。

今日のチュニジアの事件(博物館観光客襲撃)でも心が辛いし、川崎の事件(中1男子殺害)では、他人事とは思えず、上村さんをリンチする動画が流れたと聞いただけで、吐き気がしてしまったほどでした。
可愛らしい笑顔の写真は、子ども達の卒業アルバムに必ずありそうな写真でしたから・・

このような事件があった時、繊細な感受性の人間はどう身を処すれば良いのでしょうか?

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( )内は高間による補足です。

質問中に出てくるASDとは自閉症スペクトラムでなく、急性ストレス障害です。人災(事故、戦争)、天災(地震、洪水、火事)、犯罪(いじめ、テロ、監禁、虐待、パワハラ、DV、レイプ)などで、生死にかかわるような出来事に遭遇した後、その強い精神的な衝撃によって、悪夢をみたり、感覚が異常に冴えてしまったり、あるいは無感覚になったりなど、生活しづらくなることがあります。それらの症状が一か月以内に消失する場合を急性ストレス障害、一か月以上続く場合はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と言います。

これらの出来事は、受けた人にとっては不条理なものなどで、どんなに説明されても納得のいくものではありません。こういう場合は、安全な、非難されない環境の中で、ほんの少しだけ話して、しっかりと包んでもらうという体験によってのみ、その傷が癒されていきます。

この新聞への投稿されたパートの主婦は、おっしゃる通り、急性ストレス障害なのでしょう。そうなると、このようなことを、新聞の人生相談など、衆人の目にさらされるような場所で相談すること自体、選択を誤ったといえるでしょう。こういう場合は、ひっそりと30分くらい話を聴いてくれる電話相談のほうが良かった。話はそんなに長くしていると記憶が鮮明に蘇りすぎて逆効果になります。

不条理な話は、早々に片付けて現実へ戻っていくのです。それが賢明なやり方です。それを繰り返していると、しだいに忘れていきます。正確にいうなら、深層の記憶の彼方へ再抑圧していきます。不条理なものは再び抑圧する、それでいいのです。再抑圧されれば、自分のこころのアルバムへその記憶は収納され、セピア色に色あせていきます。記憶は消えませんが、影響を受けることはなくなっていきます。

ここで重要なのは、トラウマになった出来事に遭遇してどんなに自分が辛い思いをしているかということをちゃんと傾聴してくれる環境です。そのような人に自分のツライ思いを話すのです。新聞の人生相談にあるように、後藤さんのことを調べて、その殺害に怒りを持ち、ということは、そのトラウマが治癒していないうちはやってはいけないことです。この回答者は全く間違った対応を教えてしまっているのです。そういうことは、トラウマがしっかりと治癒したあとでするのなら構いませんが、生活がしづらくなっているときにするようなことではありません。

なぜこの回答者はこういう回答をしてしまったのでしょうか。それはトラウマへの対応を知らなかったということもあるでしょうが、それよりもたぶん、この回答者はトラウマを受けない精神構造をしているのです。果たしてそういう人がいるのか?と驚かれる方もいらっしゃると思いますが、いるのです。それは良いなぁと思いますか?でも、当人にはよくてもまわりの人はきっと迷惑がっているかもしれませんよ。そういう人がトラウマを受けない人々なのです。トラウマを受けたり、うつになったりするのは普通の人であるという証なのでしょう。

またトラウマ体験を詳しく話し切るというのは、まったくの逆効果です。最近、認知行動療法などの持続的暴露療法(PE)やEMDRなどが効果のあるように言われたりしていますが、それらの療法で悪化した人の話をよく聞くようになり、実際、私の相談室でもそのような話をされる方がいます。トラウマアプローチとしての認知行動療法は禁忌なのではないかと思います。ここは今後、啓蒙していきたいところです。世の中の流れには逆らうことになるけれど。

トラウマを受けたと感じたときは、その環境からできるだけ遠ざかって、自分の辛さを十分に理解してくれる人のそばで寄り添っている。家族でもいいですよ。そのように過ごしてください。そうしているうちにトラウマ体験は抑圧されて忘れていくでしょう。

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