知能検査について

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私が心理テストをする場合は、大体が病態の程度や考え方のクセを見たりできるテストで、知能検査はあまりやりません。

知能検査を避けているわけではありません。知能検査をするようなクライエントさんが来ないというのがホントですが、知り合いの臨床心理士さんから知能検査のオーダーが入る(依頼のことをこの業界ではカッコつけて「オーダー」と言います。そんなところでカッコつけるなよな、って感じですが、一応、カッコつけてみました笑。)こともあります。。

心理テストとは、大きく分けると2つに分類されます。
1.病態の程度や考え方のクセを見たりするもの
2.知能検査など発達の遅れを見たりするもの

私のところへ来談される方は成人の方が多いので、2はほとんどやりません。1がメインですね。使用しているテストは、ロールシャッハテスト、ソンディテスト、バウムテスト、家族画、MMPIなどです。バウムテストと家族画は心理テストというより心理療法の一環として使用することが多いですが、一応、心の状態をある程度読めるので、心理テストとしても利用できます。

それぞれのテストについての詳細はまた機会があるときに説明しますが、今回は知能検査についてです。

さて、みなさんは知能検査は何のためにやると思いますか?

IQを出すため…はい、それも正解です。しかしそれは副次的なものでメインは違います。(少なくとも私はそう思っています。)知能検査の目的は、日常でどうして苦戦しているのか、その理由をある程度明確にし、得意な部分を伸ばすことによって苦戦している部分を補うために実施します。苦戦している部分を伸ばすというより、得意な部分を伸ばすところに比重を置きます。

知能検査は子ども用ばかりでなく大人用もあり、一応89歳までは実施可能です。けれど私はあまり大人に知能検査をやろうという気になりません。発達障害を持ったまま大人になる方も大勢いますが、そのような方に、貴方には○○の能力が低い、○○の能力が高いと言ったところで、その人の状況は何も変化しないだろうし、もっと別の表現の仕方と対処方法があると思うからです。

一般に知能検査というのは、能力のすべてを測定しているわけではなく一部分しか測定できませんし、検査者が変わったり、検査する日が変わったりしても、測定結果が上下する可能性が大いにあります。つまりそのような限界のあるものだということで、その検査の結果を活用する態度が必要なのです。

知能検査で測定できないものの代表は、その人の持つ創造力ではないでしょうか。これは、ほんとに測定できません。IQが高いので創造的である、という因果関係は発見されていませんし、創造力を測定するそのような検査が今後できるのかどうかも怪しいのかなと思います。それは心理学、科学の限界なのかもしれません。でも、何事も限界があるとわきまえておくことは、人生を楽しむためにはとても重要なことだと思うのですよ。

さて、知能検査ですが、現在よく使われている検査では、ウェクスラー式知能検査、ビネー式知能検査、K-ABC、ITPAなどでしょうか。特に、発達障害の傾向を見たりするにはウェクスラーとK-ABCをやってみる、というのは定番になりつつあります。ビネーは障害者手帳を取得するときに昔から使われてきている検査ですが、最近はウェクスラーに押されぎみです。

というのもビネーは個人間、つまり他の人との比較しかできませんが、ウェクスラーは個人内、つまり自分の能力の何が優れていて、何で苦戦しているのか、などがよくわかるからです。この、個人内の能力差が分かるというのは大きいです。何をどうしたらいいのか、親御さんや本人に説明することができるからです。日々の生活のパターンをアドバイスできるからです。そのため、ウェクスラーは心理職ばかりでなく、学校の先生も使っていらっしゃる方もいます。

ただ、先ほど書いたように、ウェクスラーも一介の知能検査にすぎません。部分的な能力しか測定できません。さらに、テストの信頼性は検証はされていますが、本当にそのテストが計りたいものを計っているのかという疑問は常に付きまといますし、信頼性について否定的な研究がときどき発表されたりもしています。でも、完璧な心理テストなど在り得ないというのは常識ですし、完璧でなくても、それでも何かしら有効なものがあるので使われているのです。否定するのでなく、有効なものを有効に使っていきましょう、というスタンスが心理テストには必要な態度なのです。

また、検査をする人と検査を受ける人の信頼関係も影響してきます。検査をするときに、なんだかこいつとは一緒にいたくないな、なんて子どもが思っているとき検査をした結果と、この先生と一緒にいると楽しそうだな、と思って検査したときの結果が違ってくるのは当たり前です。そうならないように、検査をする側は、子どもとできるだけ親密な関係を作ろうとします。検査を始める前の数分間が勝負ですね。このとき、子どもの目が輝くかどうか。別に飴(あめ)を与えるわけではないですが、気持ちのキャッチボールは上手くやる必要があります。

知能検査といえども検査なので、それは子どもにとって大きな負担なのです。検査の前には、大きな不安があるでしょう。その不安を感じているときに、いかに子どもと親密な関係を作れるか。これは心理検査をするものにとっての一つの課題でもあります。

また、すべての検査項目を実施できればいい、というものでもありません。検査の途中も、子どものモチベーションを維持し、さらに子どもの表情の観察も欠かせません。検査中の動作もチェックします。それが検査後の総合評価のときに生きてくるからです。ですから、知能検査のときは、検査者はとても忙しい思いをしています。気が抜けないわけですね。そのようなことをしながら子どもと親密さをキープしようとするわけです。

大変は大変ですが、実際は、それほどでもありません。なぜなら、目の前の人と一緒にいる時間が、自分にとって良い時間だと感じることができるから、大変じゃないのです。それは知能検査ばかりでなく、他の心理テストのときも、また、カウンセリングのときも、同じ気持ちですね。そうやって向き合えるから、心理職という仕事は辞められないのではないでしょうか。

世界で一番使われている知能検査ウェクスラー式は、全検査IQ(普段私たちがIQと呼んでいるもの)のほか、言語性IQと動作性IQを出すことができます。

全検査IQは100前後を標準とし、130を越えると天才域に入ってきて、70に満たないと軽度精神遅滞としています。

ただ、この数値は、前にも書きましたが、検査を受ける人の状態によって変わってきて、テストする人との相性も影響してくるものです。子どもの場合は特にその影響が大きいですので、この数値を鵜呑みにし判断はできませんが、ある程度の信頼性は確保されているということで、検査後の集計と解釈に移ります。

検査に90分、集計と解釈に60分くらいかかるでしょうか。

心理テストは、知能検査に限らず人格検査でもそうですが、検査時間よりも解釈をしてレポートにまとめるのに、テストをした時間以上の時間を費やすのです。人格検査の代表的なロールシャッハ・テストなどは検査の倍以上の時間を集計と解釈に費やします。それは、このテスト一つでクライエントさんの傾向を見ようとするわけなので、解釈するほうも真剣勝負でやっているということです。

ウェクスラーは、全検査IQよりも、言語性IQ、動作性IQに重点を置いてレポートを書きます。言語性とは知識や理解する力、動作性とは迷路や符号を書き写したりする空間認知の力を測定しています。

集計のとき得点をグラフ化するのですが、発達障害の種類によって特徴的なグラフの形が現われます。それによって、ざっくり、自閉傾向がある、アスペルガー障害的な傾向がある、などが読み取れますが、それはホントにざっくりであって、実際はもっと細かな読み取りをしていきます。

アスペルガー障害を例にとってみると、言語性IQが強く、動作性IQが弱い傾向があります。(あくまでも「傾向」ということです。)

動作性が弱いと言っても、それは多動による落ち着きのなさにより得点が低くなっているだけかもしれません。年齢が上がり多動がおさまれば、素晴らしい空間認知を表現する子どもだっているわけです。また多動といっても、幼少時に虐待を受けてそれがPTSD(外傷後ストレス障害)になっているからかもしれません。多動だから、動作性が弱いからと言って、発達障害を即断できるわけではないのです。
逆に、不注意の部分が目立ってくるようになって得点を下げる子どもさんも居ます。これを見ても、単に落ち着けばいい、とだけは言えなかったりします。そのへんを、総合的に判断して解釈のレポートを仕上げる責任が検査者にはあります。

解釈は言語性IQや動作性IQでは読み取れない部分も多々あり、もっと下位レベルの検査の解釈に移ります。このへんを丁寧にやることで、日々の生活指針を出すことができ、ここまでやって始めて役に立つテストになります。

親御さんも、この子をどうすればいいのか、そしてお子さん自身も自分はなんでこうなのか悩んでいらっしゃる。ここに一つの建設的なアドバイスができることが知能検査の目的でもあり、検査者のスキルが要求される部分でもあります。
(検査自体は、ちょっと練習すれば誰でも取れるようになりますから。)

実際、知能検査のレポートを参考に学校の先生たちにも協力してもらって、その子への対応の仕方や学習のやり方を変えることで、その子の自尊心がアップし、クラスについていけなかったりした子がなんとかやれるようになってきたりするのです。

ですから知能検査というのは、非常に重要な検査の1つであると言えるでしょう。

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